未来のあるとき、仮想空間の図書館通いが偏屈な趣味と呼ばれるご時世に、

老いて役立たなくなった肉体のパーツ交換は
介護より優先的に行われる医療的措置であり、
世界中のどの国でも、生まれてきた子供には
《チップ》を埋め込むことが義務付けられている。

そんな未来の時代には、情報は《チップ》からDL。
文字情報を逐一目で追う読書などという趣味は、
ひどく懐古的で風変わりで、骨の折れることだ。
わざわざ仮想図書館に通う変わり者も多くはない。

そんな仮想図書館で53歳の「わたし」が出会ったのは、
古典ばかりを好んで読む25歳の美しい青年、サイトー。
若作りも恋も頑なに拒んできた「わたし」だったが、
サイトーに惹かれてしまう気持ちは否定できなかった。

本作を通して、改めて読書の楽しみを噛み締めた。
年齢を重ねることの描かれ方が厳しくも優しくて、
美しい庭でのティータイムの語らいに胸が熱くなる。
浮かれた年の差恋愛の話ではなく、もっと普遍的な。

面と向かって語らう時間に存在する行間の優しさを、
血の通う手を重ね合うぬくもりから読み取った。

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