十人目~坂本宏美~

○あれから探し続けている。あれから求め続けている。言葉には意味がある。会話には思いがある。あんな事言わなければ良かったと。あんな事思わなければ良かったと。

彼は勤めを果たした。受け取った人間は続けないといけない。それがどんな理由であっても。

正直なんで自分が…という思いはある。しかしそれはどうでも良い。全てのインタビューを何度も聞いた。全ての言葉に思いがあった。

その思いに対して何を感じたのか。前向きな意見を持つことができる人はいないと思う。でも受け止めないといけない。それが残された者の勤めだ。中途半端な所で逃げ出していたのなら怒れば良い。無視すれば良い。しかし、やりきっていたら。方法はどうであれやりきっていたらどうすれば良い?その思いを無視する権利は当人にしかない。外野でしかないこちら側には決定権が無い。だから受け止めた思いを受け止めたままに続けなければならない。

本当に終わったのだろうか。少なくとも終わったと考えている人間が多い。終わって、解放される事で誰もが胸を撫で下ろすことできるのだろうか。安心できるのだろうか。

安心はどう作られる?自分一人では納得しかできない。納得は安心と別物だ。多くの人が「終わった」と思う事、信じる事でやっと安心は生まれる。安心は共有される思いだ。決して一人では感じることができない。

安心を感じるとき、自分以外を考える。不安を感じる時は自分一人だと考える。

真実はその安心を作ってくれるのだろうか?今、新しい胸騒ぎ、新しい不安、新しい疑問が浮かんでは消えていく。彼は辿り着けたのだろうか。彼は触れることができたのか。

それを考えるのは野暮かもしれない。そうだな。彼みたいに、彼みたいに探しに行かないといけない。やっともやがはれた気がするな。

律儀だな。約束を守ったのか。その約束は望んでいた物ではなかったが、こっちに生きる理由と目的を与えてくれた。

まずは何をすれば良いのだろうか?彼と逆のことをすればいいのか?いち早く判断し、いち早く見て、いち早く触れる。

それでも手遅れになることがある。手遅れになっているのに行動してしまうことがある。でも、それは結果だ。ただそこに結果が転がっていて、探す側はそこから判断をすれば良いんだと思う。

彼を恨んでいるのだろうか。全てが無くなった。呪縛は解けたはずだ。もう、終わった事として生きていける。もう誰もあの事件の話をしないだろう。彼はそうなるように動いた。

もう解放されて良いんだ。何も知らない、何もわからないと伝えれば良いんだ。誰も謝罪には来ないだろう。しかし、目を伏せて、深刻そうな顔をする。少なくとも笑顔で接したりはしない。それだけでも大分救われる。彼は救ってくれたな。うん。救ってくれた。だったら俺が救いあげてやる。

俺は正直な奴が好きだ。約束を守る奴が好きだ。ただ、俺のことを狂っているとか書いていたのはちょっと傷ついたが、まあ、許す。

もうあの家は焼け落ちて、あの子も死んだ。それが良かったんだと思う。

ちくしょう。俺だって傍観者だ。誰だって傍観者だ。欲しい意見が欲しくて真実を歪めてしまうんだ。

その真実は戻るのか?まだわからない。だってはじめてないからだ。

解放された喜びは感じない。一つの出来事を超えたら、別の出来事が何故をぶつけてくる。

俺がやるべきだった。俺が殺すべきだった。まさかと思った。俺がやらなきゃならなかった。俺は彼を巻き込んでしまった。

俺は彼に殺すと言った。その言葉は思いのほか効いていた。自分で聞いてびっくりしたな。あんな感じだったのか。まず声が思っていたのと全然違う。この決意表明も後で自分で聞くんだろうけど、その時、まだ気恥ずかしい感じが残っているんだろうな。

彼はなんだったんだろう。今はもうわからない。少なくとも敵じゃなかった。変わった奴だなと思った。正直むかついた。いけしゃあしゃあと出てきやがって。そしてこのインタビューを聞いても…うん…悪いと思う。彼も悪いと思う。

だけど、どうしてなのか…俺には誠実でいた。ニュースを見てひっくりかえった。燃えているのは姉さんの家だ。焼け跡から三人の死体。警察は調べていると言っていたが俺にはわかった。なんて事を思った。どうしたら良いのかと思った。病院から電話があった。何者かにあの子が殺されたと。なんて事だと思った。信じられなかった。そして…そうだな、混乱していると日常の動作をやる…それは一番混乱を抑えるから。日常に立ち返って混乱を振り返ろうとする。うん。俺は新聞を取りに行こうとした。夕刊に何か書いているかと思ったからだ。

そうしたら郵便受けに血の付いたレコーダーが入っていた。俺は理解した。でもなぜ?これを聞いて思い出した。俺がそう言ったからだ。

そして…俺が何も知らないとなると…多分殺しに行っていた。誰かはわからない。駅とか適当なところで暴れていて、俺は向こう側に行ってしまう所だっただろう。彼は最後の最後で俺に触れてくれた。「行くな」と体を張って俺を守ってくれた。

どうしてそこまでやってくれたのか。どうして俺を守ってくれたのか。

多分、それは今後わかるだろうな。わかってほしいと願っている。俺か、俺がやるのか。笑えるな。

坂本君、まだこのインタビューは完璧じゃない。君の事がわからないからだ。だから俺は、君と彼等に触れるために、納得するために、掘り起こしたいと思ったのだ。これから先のインタビューを坂本宏美君へ捧げる。インタビュアー、北山みつお。


~完~

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インタビューインテグラ ポンチャックマスター後藤 @gotoofthedead

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