九人目~田中友也~

○これは、僕のためだ。僕のためなんだ。僕が僕を取り戻すためなんだ。もう何も抱えたくない。何もからも背けたくない。ただ見る。そして触れる。この言葉は僕の意思表示だ。この言葉は僕の世界だ。この言葉は僕自身だ。ああ…あの時のままだ…時が止まっているかのように。

田中…居るのか…?田中…?十五年ぶりに入った…田中の家は…埃が…積もっているだけで綺麗だった…足跡…?がある…多分…綾子ちゃんが田中を連れてきた時の跡だと思う。

足跡は…階段に続いている。階段の上…上がって左側が田中の部屋だ。そして…右は綾子ちゃんの部屋だったと…記憶している。昔…遊びにきた事を…覚えている…はじめて田中の家に来た時…田中のお母さんは凄く喜んでくれた…「この子は…友達を作るのが下手で…ずっと一人の世界にこもってるの…」って言っていた…その時…綾子ちゃんは恥ずかしそうに自分の部屋に戻っていった…

思い出してしまう。田中は…親の前ではあまり話さなかった。ちょっとバツの悪そうな、いつも通りの気弱な笑顔を浮かべて…曖昧な返事をしていた。肯定とも…否定ともとれないような…

そうだ…そうだった…田中は…肯定とも否定とも取れない笑顔で僕たちを見ていた…森が馬鹿な事を言いはじめ、僕が膨らませて、田中が笑う。僕はふくらませすぎた。ふくらませすぎた結果がこれなんだ。

破裂して全ては瓦解した。僕だ。原因は僕だ。止めなかった。傍観者だった。面白いと思っていた。面白いと思い込んだ。

馴染めなかった人間が優越感を持ってクラスメイト、周りの人間を見下す。それが何よりも楽しかった。でも僕たちには何もなかった。悲しいほどに普通だった。言葉でいくら飾っても、心をいくら欺いても。そこに残っているのはただの中学生で、ただ周りに馴染めないガキだった。

今、ホコリがかぶったソファーに座っている。多くの荷物は引越しの時に持ち出されたのだと思う。慌ただしい引越しなのかいくつかの家財道具は残っている。このソファーもそうだ。

家の中は予想していたより綺麗だった。誰も中に入った形跡が無い。家の周りの塀には落書きと消された跡が現代アートみたいに残っていた。両隣、前、斜向かい。多くの家は空家だった。それなりに住みやすく、多少人気もある地域のはずなのに、この家の周辺だけは異空間のように静かだった。

僕は田中になんて話しかけたら良いのだろうか。田中は僕をどのくらい恐れているのだろうか。僕は田中にどんな気持ちを抱いているのだろうか。

僕は当事者だ。当事者として責任感を持ってしかるべきなのだと思う。でも、今心の中にあるのは「これからどうしようかな」とか「溜まっている仕事もあるな」という事ばかりだ。僕は薄情物なのか。心が壊れているのか。

多分、そのどちらでもない。悲しい程に普通なんだ。普通だから井上先生と会った時、僕の事を忘れていて少し寂しいと感じた。北山さんに凄まれた時は小便を漏らしそうになった。山塚と話している時は僕の中を覗かれているみたいで帰りたくて仕方なかった。先生と会った時は不安が爆発して…ああ…そっか。そう思っていたんだな…僕は田中を殺そうとしていた。メモにも書いてある。

さっきタクシーの中で書いたメモにもそう書いてあるか…でも…こんな程度だったんだな。

結局僕には勇気が無いんだろう。何かをやりぬく信念も、森みたいな歪んではいるけど…守りたい物も無いんだろう。とりあえず…あっちこっちに触れて…自分が傷つかない事を確認して…歩いて来た…インタビューした人は誰もが傷ついていただろうな。いや、あのなんだっけ、あの子…ああ、聖戦士なんとかか…メモに…関取って…………

こういう風に変なこと、多くの事を考えるのも逃げているって事なのかもしれない。八坂さんを脅して住んでいる家を聞いた。その後、話しかけてきた佐野さんと話し込んで…あの二人には悪い事したな。八坂さん…大丈夫かな…って…こんな時に他人の心配か。

一番心配しなけりゃならない奴が僕の真上に居る。たまにギシっと音がするから…確実に居るんだろうな。こんな近い距離、薄い板とか緩衝材とか木とかを挟んだ先に田中は居る。会いたくてしょうがなかった。会いたくなくてしょうがなかった。触れたくてしょうがなかった。触れたくなくてしょうがなかった。

でも結局は少しでも時間が流れたらそれだけ薄くなる。心の中の濃い部分がどんどん薄くなる。

田中はどんな姿をしているんだろう。田中はどんな顔をしているんだろう。昔のままって言う人もいれば、変わったって言う人もいる。

昔のままの田中だったら…嫌だな…変わっていて欲しい…僕は…田中が極悪人であって欲しかった。田中が訳もなく人を殺しまくった人間で居て欲しかった。田中が僕から離れてモンスターでいてくれるならもっともっと触れる事ができただろう。実際…このインタビューをはじめるまでは触れていた。

でも…人間だった。田中は…紛れもなく人間だった。インタビューを続けてきてわかったのは田中は弱い、悲しい人間だったって事だけだ。田中を殺したいのだろうか。まだ殺せるのだろうか。殺して…なんになるんだ…もう全ては起こってしまった。起こってしまった後なんだ。そんな状態で…殺して…また何もわからなくなる。悲しい思いも嬉しい思いも、全部無くすにはゴールを潰してしまえばいい。全て途中にしてしまえばいい。途中なら何もなかった事にできるかもしれない。そうだ。途中なら…でも…それは…凄く悲しいことで…何にも…なれなくて…どこにもたどり着けない…

ただ、途中、途中が続く。空白が続く。それを感じて…起こってしまった事だけを…だめだ、クソ。だめだ。僕は何を話しているんだ。ここで独り言を録音してなんになるんだ。まだ途中だ。途中で投げ出すな。まだ何も変わってない。日常に戻れるのか?このまま帰って…日常に戻れるのか?皆は日常に戻れるのか…綾子ちゃんは…日常に…帰って来れるのか…そうだ…綾子ちゃん…生きてると良いな。

生きていたら…どうするんだろう…また…田中の世話…世話…世話…ってなんだって話しだよな。田中も…良い年齢じゃないか…でも…変わって無いんだろうな。全ての時間が止まってしまった。田中は時間を止める事で自分を保ったのかもしれない。時間を止める事で、自分が関わってしまった、手伝ってしまった罪を償おうとしているのかもしれない。痛みのピークを感じ続ける事を選んだのか?

ああ…会いたい気持ちが薄れて行ってしまう。会うために、触れるために…そのためにここに来たはずなんだ。それだけを求めてここに来たはずなんだ。

どんどん昔の思い出が蘇ってくる。こんなにも覚えていたのか?今いる場所から見えるリビング、あそこで昼飯をご馳走になりながらおばさんやおじさんと話していた。「うちの子、変わってるでしょ?」「仲良くしてくれてありがとうね」そんな他愛のない会話だ。どうして今思い出すんだ。あの時、そんな日常を思い出していたらここまで物事は進んでいなかったはずだ。どうして思い出したい時に思い出せず、思い出したくない時に思い出してしまうんだ。

一緒に遊びはじめて…それから…森も…すぐに仲良くなった…仲良くなった…仲が良かったんだ。そうだ、仲が良かったんだよ僕たちは。それで良かったんだ。それだけが良かったんだ。

三人で過ごす。三人で遊ぶ。クラスに馴染めなかったこと、なんの変哲もない、普通の家に育った事、何も起こらない街で過ごした事、それにどうして疑問を抱いてしまったんだ?どうしてここまで転げ落ちてしまったんだ。

なあ田中、聞こえてるだろ?なあ。僕だよ。坂本だよ。分かってるだろ?いつもさ、この部屋から怒られてたよな?「静かにしなさい」ってさ。だから僕がいることも分かっているんだろ?ずっと探していたんだよ。もうその理由もわからなくなるくらいにさ。最初はどんな気持ちだったのか、それがどんな気持ちに変わったのか。その両方がもうわからなくなってきた。今、この家の中に僕と君がいる。やっとたどり着いたはずなのに、やっと触れられるはずなのに僕はまだ決心がつかずにいるんだ。

………どうして…こうなったんだ…多くが重なったのか…いや、違う…全部はバラバラだったんだ…わかったふりをしていただけなんだ…わからない事はわからないと言えたら良かった、辛かったら辛いと言えばよかった。

どうして森を突き飛ばしてしまったんだ。…いや…どうして…森を…突き飛ばすだけで止めなかったんだ…どうしてあのまま…逃げ帰ってしまわなかったんだ…どうしてあの時…殴っただけで止めなかったんだ…どうして落ちていたパイプで…どうしてそのままにせずに…落としてしまったんだ…どうして…そのまま…逃げてしまったんだ…

なあ、田中。なんで僕が君を殺したいと思ったのがわかったんだ?なんで僕達をかばって…何も言わなかったんだ?まさか…助けたんじゃなくて…こうしたかったのか…この状態を…作りたかったのか…違うなら違うって言ってくれよ…違うって言ってくれないと…わからないままなんだ…

僕は…ただ…どっちでも良いんだ。答えが欲しいんだ…答えを…わからないまま突き進んでしまった…わからないままに逃げてしまった…逃げなくて良かったのか?受け入れたら良かったのか?あの時は何も考えられなかった…田中…聞こえてるんだろ?そうだよ…森も…お前も…全部消して…なかった事にしたかったんだ。

一番…一番…弱かったのは僕だよ。触れられなくて…逃げているうちに触れられなくなって…嘘をついて…嘘を付いている事すらわからなくなって…ただもう…嘘をつき続けて…他人の言葉を都合よく解釈して…ああ…わかった…ガタが来たんだな…歪に繋ぎ留め続けて…そうか…もうバラバラになるしかなかった。

田中、僕の事、好きだったか?僕はお前の事、好きだよ。うん。好きだ。森も好きだった。だから試してしまったんだろうな。

好きだからどこまで好きでいてくれるか、好きでいられるか試してしまった。でも…そんな事する奴が…最初にリタイヤして…逃げて…溺れて…壊してしまった。綾子ちゃんに言われたよ…僕がいなかったら…僕がいなかったら…何も起こらなかった。それに…僕が居れば…僕が…存在しないように、この世界に居ないように振舞わず…姿を現してみんなと触れ合っていたら…こんな事は起きなかった。

小さな冗談は小さな冗談で終わったんだよな。僕は人殺しだ。森も人殺しだ。田中、なんで…誰も殺していないお前が一番苦しんでるんだ。田中、もう良いんだ。言ってくれ、本当の事を全部。それで何も変わらないかもしれない。それで誰も納得しないかもしれない。でも…僕たち二人…いや…森も…三人皆で納得できるだろ…あの時、ウドルカルマを作った時みたいに…小さな冗談に納得していたみたいに…今度は大きな真実に納得したいんだ…もう…嘘は無理だ。これ以上の嘘は無理なんだ…

周りの人はまだまだ納得してくれるだろう…僕は今回のインタビューも…多くの人から真実を聞き出したのに…僕は…嘘ばかり答えていたような気がする…でも…やっている時はそんな事ないんだ…本当に…本当に感じた事を、本当の事を伝えているだけなんだ…でも…聞き返すと…メモを見ると…

もう僕には嘘が、逃げることが体の奥底に染み付いている…まだ…奥底で認めていないんだ…僕は関係ないと思っているんだ…僕は森を殺していないと思っているんだ。

僕はまだ…普通の…つもりでいるんだ…人殺しの僕が…なあ、田中。怖いか?さっきまで君を殺そうと思っていた友達が真下に居るよ。怖いか?怖かったら…そうだと思ったら床を一度鳴らしてくれ。違ったら二度だ。

今は…まだお前を殺したいのかな…いや、殺すって言うのは感情が高まって…何か…ある種の…発露なんだ。消したい。ただ消したい。純粋に消したいって気持ちなんだろうな。でも…そう思えるのは健全なのかもしれない。消して…僕は…人を殺して…なかった事に、過去に戻ろうとしている。森の事もそうだ。

先生を、森の母親を抱いた。そこからだな。森に恨まれて…ああ…ウドルカルマがめちゃくちゃになっていって…森がおかしくなりはじめて…僕が逃げてしまって…そして…お前は巻き込まれた。巻き込まれた。………巻き込まれた………………………

なんで黙ってるんだよ!黙って…黙り続けて…こうなったんだろうが!!なんでまだ黙っているんだよ!!誰も喋らなかった!僕も!森も!お前も…どうして…三人で居ただろ?話せばよかっただろ?

巻き込まれて満足なのか?これで…この状態が……この状態が…満足とでも言うのか?答えろよ!……?今…床を鳴らしたか…もう一度…もう一度やってくれ…

……そうか。わかった。そうか…わかった。わかったよ。

わかった。会う。田中。わかった。その…思いを…聞かせてくれ。うん…僕の心も決まった。その思いを…全部聞かせてくれ…嘘は無い…全部聞いて…記憶して…抱えて…生きていく。ちょっと待っててくれ!今…行くから…

ん…?え?………もしもし…?ああ、はい。……そうです。いえ…親族では無いです…彼女は………え……はい…いや…ちょっとわからないです。はい。わかりました…後ほど…伺います…はい……はい。失礼します。…………………………………うん。よし。うん。そうだ。うん。よし。よし。田中、聞こえるよな。今いるぞ。ドアの前だ。開けるぞ。開けるぞ…僕が…開けるぞ……………………え…ええ…なんで…どうして…そんな。そんな………どうして……やり直すって…そんな…こういう意味だったのか…?どうして…そんな…あんまりだ…あんまりだ…そんな…どうして…おい、田中。田中!生きてるか!!おい!!!


■………な…い………さ……


○なんだ!?何!?田中!僕だよ!坂本だ!!田中!


■……めん………い……な……さい


○しっかりしてくれよ!おい!!田中!しっかりしろって!


■ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…


○田中!おい!!おい!!!あ………お前…足……おい!綾子ちゃんがやったんだな!?綾子ちゃんが、お前と……おばさんとおじさんを…おい!!


■ごめんなさい。僕が悪いんです。僕は悪い子です。僕は真面目になります。僕は普通になりますから許してください。僕が全部悪いです。良い子になります。申し訳ありませんでした。お母さん。お父さん。綾子。申し訳ありませんでした。ごめんなさい。ごめんなさい。


○田中………しっかりしてくれよ!田中!!謝るなよ…!僕が…僕が悪いんだ!田中!!!


■僕は良い子になります。僕はもう一度大人になります。お父さんありがとう。お母さんありがとう。綾子ありがとう。謝ります。真剣に謝ります。僕は真面目になります。僕は立派になります。僕は普通に戻ります。ありがとうございます。ごめんなさい。


○…田中……頼むよ……頼むよ……どうして………綾子ちゃん………どうして………折角………どうしてなんだよ………僕が……遅すぎたのか………どうしてなんだよ……


■僕が悪いです。僕が悪いです。ごめんなさい。良い子になります。僕は生まれ変わります。もう一度大人になります。ごめんなさい。殴ってください。切ってください。電気を通してください。僕は僕が与えた辛さを自分に取り込みます。ありがとうございます。ごめんなさい。


○お前は…何も………何もしてないじゃないか……巻き込まれた…だけじゃないか……………田中…頼むよ………田中………僕を見てくれよ…………どうして…お前…戻ってきたんだろ?僕を見てくれ…


■僕は悪い子です。僕は反省しています。ごめんなさい。ごめんなさい。お父さん。お母さん。綾子。ごめんなさい。僕はたくさんの迷惑をかけてしまいました。もう一度大人になります。普通になります。ありがとうございます。もう一度大人になります。ごめんなさい。ありがとうございます。


○田中!くそ!ほら!目を覚ませよ!!田中!!田中!!!!くそ!おい!!目を…!!覚ませって!!!おい!!!!


■ありがとうございます。愛のムチをありがとうございます。僕は真面目になります。普通に一歩近づきました。ありがとうございます。申し訳ありませんでした。僕は普通になります。ありがとうございます。


○…どうして…綾子ちゃん…どうするつもりだったんだ…こんな事して…どうなるって言うんだ…これで…普通になるのかよ…全部なくなってしまったじゃないか…もう…全部無くなって…触れろって言ったじゃないか…君の言う…触れるってこういうことなのか…こんなの…僕らと変わらないじゃないか…ふざけるなよ…どうやって…何を…どうやって…田中……聞こえてるか?僕が…僕が居るのは分かっているか?


■僕は悪い子でした。僕は悪い子です。僕は良い子にならなければなりません。僕は正しいことをしなければなりません。ありがとうございます。僕は良い子になります。もう一度良い子になります。ありがとうございます。


○これで…こんな事…これでお前は普通になるのか?やめてくれよ…周りを見ろよ!こんなんになっちまった両親にが目の前にいる状態で!!!どうやってお前…普通になるんだよ!これで何が生まれるんだよ!答えてくれよ…僕の質問に答えてくれよ…!!なあ!見てくれって!僕を見てくれよ!!僕と同じ世界にいないと…触れられないじゃないか!僕だけじゃお前に触れられないんだよ!

離れないでくれよ!ここにいてくれよ!こっちにいてくれよ!なあ!僕はこんなお前を追ってきたんじゃないんだ!僕は…お前を憎んだし殺そうともした!でも、それは…同じ世界にいたからだよ!こんな状態…どうしたら良いんだよ?僕は………ああ……どうすれば…良いんだ…結局…誰もが…あの事件に…この街に…この家に…囚われているのか…

どうすれば良いんだ…田中、お前はどうしたいんだよ。頼むよ。答えてくれ。頼む。少しでもいい。僕を見て僕の言葉に答えてくれよ。………今まで…触れなかった…避けて来た…逃げてきた僕が…こんな事を言うのはおかしいか…

でも………やっと、やっと決心できたんだ。たのむよ。田中。田中、どうしたいんだ。お願いだ。このままじゃ…このままだ…僕は…今、やっと真っ直ぐに見る事ができた。やっと嘘をつかないでしゃべっている。頼む。田中。田中。僕は、僕はお前に触れたいんだ。

お前は…これで良いのか?このままで良いのか?このままでどうするんだ!?なあ!僕には…まだ知りたいことがある…わかりたい事がある。教えてくれよ。僕の前に姿を見せてくれよ。

ここで…この街で…この家でこんな状態で過ごすことが…求めていた事なのか?


■僕は何も求めてはいけません。僕は何も求めません。僕は与えるように生きていきます。幸せを。幸福を。幸運を。多くの人に与えます。良い人になります。ごめんなさい。これからは良い人になります。僕は良い人になれます。僕は自分で歩けます。僕は自分の人生を生きます。ありがとうございます。ごめんなさい。


○………なあ、田中…覚えてるか。お前、すぐ謝ってたよな。でもさ、それは…子供だったし…しょうがなかったと思うんだよ…でも…もう良いじゃないか…この街から解き放たれないとダメなんだ…みんなどこかに行った…どこか遠い所で…みんな暮らしていると思っていた…なあ、もう…解放しよう。なあ…僕と行こう。僕と一緒に行こう。まだ…まだやり直せる。やり直してくれ。罰を受けるのは僕なんだ。責められるのは僕なんだ。痛みを抱えるのは僕なんだ。

僕が受けないとダメなんだ。田中、頼む。まだ、まだ傍観者に戻れる。見ているだけの人に…これから成れるんだ。頼むよ。僕を見てくれ。僕は全てを受け入れて生きて行くから…遠くで見ていてくれ…同じ世界で…僕を見ていてくれ…頼む…頼むよ…ダメなのか…ダメなのか…僕は…また間に合わなかったのか…間に合わなかった…そして…間に合わなかった事に…安心してしまった…

また…逃げられるって…心のどこかで思ってしまった…ごめんよ…本当にごめんよ…何も買われなかった…この事件を知っている人間が減ったって…心の中では喜んでしまった…ごめんよ…僕は何も変わっていない…そうだ…僕だけ変わっていなかったんだ。

森は…歪んではいたが…大人になった…触れようとした…田中は…巻き込まれただけなのに…自分に落とし込んだ…そして僕は…僕は…理由をつけて…遠くから見ているだけだった…話しを聞いているだけだった…自分が聞きたい話しを…自分が欲しいように…書き換えてきたんだ…事実を求めるなら…事実を知っている人に聞けばよかった…結局僕がした事は…僕が聞きたい事を話しそうな人を探して…田中…お前を…殺す理由を…裏付けしたかったんだ…

怖いという思いを隠そうとしていた…全ての感情をなくそうとしていた…それができないから…お前を殺して…全てなかった事にしようとしていたんだ…悪かった…僕は弱かった…悪かった…なあ…戻れるのかな…僕たちは戻れるのかな…?


■ごめんなさい。真面目に生きます。真面目に生き直します。僕は悪い子です。僕は何もしなかった。僕が家族をバラバラにしました。ごめんなさい。僕は普通になります。ありがとうございます。チャンスを下さってありがとうございます。


○…………田中…戻れるって言ってくれ…一人だったら…もう…どうしたら…このままじゃ…また先生に甘えてしまう…僕は自分の足で歩けなくなってしまうそれが見えるんだ…どこまでも弱くて…逃げようとする自分自身が見えてしまうんだ…僕が受けるべき罰を避けているんだ…僕が償うべき事から逃げているんだ…田中…もう良い…もう良いから…僕が……僕が終わらせないとダメなんだ…ああ…そうだ、終わらせないとダメだ。僕が…お前も…綾子ちゃんも解放する。僕がこの家もこの街も解放する。僕は触れる。僕にしか触れられない方法で…田中…ありがとうな。本当にありがとうな。ごめんな。田中…僕は…間違っているのかな…何かを決める時、必ず迷ってしまう。正しいのか間違っているのかで。でも…それに価値があると思うかい?その判断には…価値は無いんじゃないかって思うんだ…要は…進み方の問題なんだと思う。どんな風に進むのか…その選択にだけ…価値があると思うんだ…

田中、生きてきて楽しかったか。田中、今まで辛かったか?田中、これからも苦しみながら行きたいと思うか…?

…………………田中。君は…自分自身が悪いと…思っているのか?それとも…僕が悪いと思っているのか…?それとも…誰も…悪くないと思っているのか…?


■……………悪い。


○…?田中。おい。おい!教えてくれ。「誰が」「何が」悪いんだ!?教えてくれ!頼む!田中教えてくれよ!僕には何もわからない!頼むよ!教えてくれ!お前の口から聞かせてくれ!僕を…僕を助けてくれ…僕に…教えてくれ…


■僕が悪いです。僕は悪い子です。僕は何も言いませんでした。僕が悪いのです。僕は良い子になります。僕は生まれ変わります。綾子、ありがとうございます。僕に反省する時間を与えてくれてありがとうございます。足を切ってくれてありがとうございます。お父さんお母さんと一緒にいさせてくれてありがとうございます。僕は頑張ります。頑張って生まれ変わります。頑張って生き直します。今までの僕とはさよならします。僕は生まれ変わりますごめんなさい。僕は真面目になります。僕は良い子になります。ありがとうございます。


○…田中……………田中……田中!!!………………僕は決めたよ。僕は触れるよ。僕が全てに触れる。僕が触れて終わらせる。ありがとう。本当にありがとう。僕は生かされていた。自分で生きていると思っていたが生かされていた。田中、僕は責任を取ろうと思う。僕は果たそうと思う。決断をする。その決断を受け入れてくれるか?田中。君のために、もう、自分の事は良い。僕は君のためだけに動きたい。

もう良いんだ。もう良いから。ありがとう。ありがとう。もう僕は行くよ。田中。君は僕の事が好きかい?


■ごめんなさい。僕は生まれ変わります…僕は良い子になります…僕は真面目になります………


○田中、僕はお前が好きだ。今、はっきりとわかった。お前と一緒に居た時間は…少しだったけど…僕は…お前の事を友達だと思っている。今も…少しは…友達と言える人がいる。でも…最初に…本当に心から友達と思えたのはお前だ。田中。本当にありがとう。ありがとう。ありがとう。お前が居てくれて良かった。本当に良かった。ほんっとうに、ほんっっとうに良かった。僕を恨んで生きていくこともできたのに…それなのに…そうしなかった…僕を殺しても良かったのに…僕を殺さなかった…僕は勤めを果たす。そうだ。勤めを果たすよ。

田中、本当に感謝している。本当に、本当にだ。お前が僕をこの世界に存在させてくれた。やっと、やっとこの世界でまっすぐ立てた。田中、お前は僕をかばってくれたんだな。警察とかからじゃない…全てから…どうしてなのか…今はわからない…この事だけは…自分にとって…都合よく解釈しても良いよな?田中。聞こえているか?聞こえてくれているか?わからなくても良い。理解できていなくても良い。聞こえてさえいたらそれで良い。

田中ありがとう。僕はもう行かなくちゃいけない。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう。



■う……ぐぐぐ…ごめんなざ……い……ぐぐぐああ……ごめ…真面目に……いぎま……ごめあぐぐぐぐぐ


○ありがとう。本当にありがとう。僕が背負う。ありがとう。田中。お前が居てくれてよかった。心から友達だと思っている。ありがとう。ごめんな。ごめんな。ありがとうな。田中、本当にお前は僕の友達だ。ありがとうな。僕が解放する。僕が責任を取る。


■あ……ぐぐあぐぐぐ…あ……ごめ……真……ぼ……綾…………父……お母………あり……ごめ……あ………………………………………………………………………………………………


○………う…ううう…うあ…ううううう………………うううああああああああああ………あああああああああああ………ああああ…



○ああああ…たな……ああああああああ………田中ぁ………ああああああああああああ



○あああ……僕は…………僕は…………僕は…………もう………許されなくて………良い………


■ありがとう。


○田中……………おい!田中!おい!!おい!!!田中…!おい!!!!



○………ありがとうな。ありがとう。僕は…触れるよ。全部。


~メモ~

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