戦車兵だった祖父との再会を通して、少女は自分を問い直していく

主人公の宮坂由機は、みんなのために無理をする「良い子」だ。
周囲の期待と両親の無理解。努力してみんなに優しく気を遣うほど、癒せない疲労と孤独感が増していく。
そこへ現れる自分とは何もかも正反対な転校生、楓に苛立ち、やがてその飾らない態度に、由機は薄れかけていた祖父の思い出を重ね合わせるようになる。
一方、世界各地で同時に起こる奇怪な現象。ファンタジーと呼ぶにはあまりに鉄臭い、第二次大戦の戦車の亡霊達。
物語の視点は大戦末期の満州、現代ロシア、そして日本へ。映画のような場面の切り替わり、群像劇は徐々に緊迫を帯びながら進行していく。
素晴らしい文章。
1995年。タイ米、地下鉄サリン事件、阪神大震災、ウィンドウズ95。あの近くて遠い時代が筆者によって巧みに切り取られて甦る。
何気ない食べ物の描写が食欲をそそる。
これは読まなければ勿体無い。

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