幻想ニライカナイ―海上の道―

作者 ハコ

60

22人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

ニライカナイとは、沖縄に伝わる「理想郷」を指す言葉である。
ニルヤと呼ばれることもあり、はるか遠い東にあるという。
理想郷から毎年、神が訪れて豊穣をもたらす。
死者の魂はニライカナイに導かれ、生まれ変わる。

では、ニライカナイは単なる理想郷ではなく、常世ではないのか。
黄泉や根の国、妣の国を指し、熊野信仰に近いものではないのか。
古来、別々に文化を育んだはずの大和と琉球の死生観に、
なぜこのような決定的な類似が見られるのか。

昭和20年3月、沖縄に配属された宮田は、
アメリカ軍による海上からの攻撃を避けて洞窟に潜り込む。
若い女の骸骨に迎えられ、洞窟を抜けた先に、
テダの岬と呼ばれる不可思議な海岸があった。

宮田はそこで若い祝女《ノロ》、マヤに出会う。
マヤがひとりきりで住まう海岸からは、3日と置かず、
死者が船に乗って東のニルヤへ渡っていくのが見えた。
海岸の宮田とマヤだけが、生者の国にもニルヤにも行けない。

兵隊として招集される前は大学で研究をしていた宮田を通して、
民俗学や神話学、宗教学の膨大な知識が滔々と語られる。
正直なところを言えば、「概念」「観念」の話はとても難しい。
ひとつひとつ理解して読み進めるには時間がかかる。

大学時代の教養科目における精神医学の夢分析の講義で、
「女神の死と再生・生産」の夢について聞いたが、難しかった。
琉球にまつわる考古学や文献史学の論文は何本も読んだけれど、
伝承と呪術と王権が混然一体となった社会構造は難しかった。

戦時中という異様な状況下から逃れてきた宮田は、
マヤと次第に打ち解け、互いの身の上を語り合う。
死者の国や神の不在について論じながら、
不意に郷愁に駆られ、やがて物語は大きく動く。

やすやすとは読めず、自分では決して書けない物語だった。
目に見えないもの、行って確かめられない場所を想像する。
繰り返し読… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

戦禍をさまようひとりの兵隊は、落ち延びた洞穴のさきで、命のともしびを見つめた。ニライカナイへむかう同胞たちを見送り、彼は魂の行き先をえらぶ。

すごく面白かったです。一気読みでした。夢中になって読みました。
ドヤ顔で披露したくなる豆知識がふんだんに盛り込まれており、それに関する本をもっと読みたくなりました。昔から浄土へいたる道だと思われていたという熊野にも訪れたくなります。
主人公の揺れ動く気持ちにとてもシンクロしてしまい、彼の最後の選択もストンと胸に落ち着きました。現状が満たされていない時ほど、未来への不安と想像はどんどんと広がってゆくのだろうなと、飢える時代に生まれおちた人々を思い胸が痛くなりました。

すごくオススメです。みなさま、ぜひお手にとってこの物語のページを開いて見て下さいn(_ _)n

★★★ Excellent!!!

昭和20年、沖縄。
艦砲射撃の中、洞窟へ逃げ込んだ日本兵・宮田。
洞窟を抜けた先には不思議な海岸があり、謎めいた女性がいた。

「注目小説ピックアップ」から、読ませていただきました。
私の好み、どストライクでした。
記紀や風土記。柳田國男。
ハイヌウェレ型神話。
ギリシャ神話やフレイザーの金枝篇。
洋の東西を問わぬ豊富な知識で、琉球神話の意味を考察していきます。

(全く違う物語で、行先の東西も違うのに、『ナルニア国ものがたり』の鼠リーピチープが漕ぎ出した海まで思い出してしまいました。)

私たちは、どうしてこんなに、海の向こうに惹かれるのでしょう。

★★★ Excellent!!!

民俗学、記紀神話の実際の記録、知識を作中に盛り込んでの作品は私がいずれ書いてみたいと思っていた伝奇小説のあり方で、それを実践したこれは(私にとっての)一つの理想形です。これほど情熱を燃え上がらせる作品に出会えるとは感謝で、こういう考証の世界に分け入った作品はまことに貴重です。これなら金を払ってもリアル書籍で読んでみたいと思わせるクオリティ

★★★ Excellent!!!

小説を書く際によく言われる「説明ではなく描写をしろ」という言葉がいかに無意味かを思い知らされる。なぜなら説明こそがこの小説のキモであり、もっとも気持ちのいい部分だからだ。

別物だと思っていたことが無関係じゃなかったこと。全く関係がないと思っていた事象が繋がること。日本や沖縄や南方の神話が、実は根っこの部分で繋がっていて、それが本作のサブタイトルでもある「海上の道」という言葉に収束していく様を見るのは本当にアツい体験だった。

説明は無味乾燥でも無機質なものでもない。センス・オブ・ワンダーや感動に満ちたものであることを再認識させてくれる、そんな話だと思う。みんな読もう。

==============================

余談ながら、本作は2016年の秋に同人で書籍化されています。ちょっとした宣伝ですが、自分が組版を担当したので興味のある方はぜひお買い求めください(通販ページもその内作りますので)。
http://dark-constexpr.github.io/libraries/niraikanai.html