人はきっと飽き足りないのだ、ただ命の種を繋ぐだけでは

QOLという言葉がある。
quolity of life、生命の質。医療の分野においては、患者の身体的苦痛を取り除くだけでなく、精神的、社会的な満足度を重視する、そんな意味合いで用いられる。
このお話を読み終わって、真っ先に思い浮かんだのがこの言葉でした。

罹患率百パーセント、二十歳まで生きられる者はほとんどいないという恐ろしい病。
これに感染するのが「産む性」である女性のみだということが、この物語の核になっているように思います。
月面に生きる人類の種を絶やさぬよう、徹底管理される生殖。
貴重な女性はクローンで数を増やし、「結婚」の年齢である十五歳まで、どうにか種を維持していけるだけの人数を確保する。
生と、そして死が、自らの存在意義に直結している。生々しい、そのままの意味での命の重みを、感じずにはいられませんでした。

しかし人間は、ただ生きるため、命を繋ぐためだけに生きることはできません。
制限された生の営みの中で、人々は歌い、絵を描き、本を読み、そして——人を愛し、愛を求める。
それらの行為は、生死の生々しさの中で、より純粋で尊いものに感じました。
予め決められた伴侶と共にすることを義務付けられた「家族の時間」に、ヒトが人間たらんとする希望が込められているようにも思いました。

整然とした一人称で紡がれる物語の主人公たちは、みな確かな血の通った人間であり、彼らの感じた迷いや怒りや哀しみ、そして喜びを、胸に響くような生の感情として捉えることができました。
それぞれの登場人物の生き様が、とてもリアルでした。
個人的には、委員長ことラルフが非常に理知的で大変いい男でときめきました。彼がサーシャの伴侶で本当に良かった。

これ本当にただで読んでしまって良いのでしょうか。素晴らしい物語をありがとうございました。

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