「――がしあわせなら、俺はそれでよかった」

兎路の娘としてしきたりにならい狐神に嫁ぐ……己に定められたそれが婚姻とは名ばかりの生贄だと知ったかさねが、突如現れた正体のしれない青年イチの手を取り逃げ出すところから、物語ははじまります。
イチは、自分の目的のためにかさねを「盗み出した」立場で、世間知らずのお姫様であるかさねをぶっきらぼうにあしらいながらも、旅の途中の危険から捨て身と言っていいほどの献身で守りぬきます。目的のために我が身が傷つくことを厭わないイチの、そのあり様にかさねはかなしみを感じ、肯定できないながらも、彼に惹かれていきます。
――この男のしあわせを願っている人間がここにいることに。いつか気付いてくれたら、かさねはうれしい。――
かさねの想いは正しく届くのか。届いてほしい、そう思わせる切実で壮大な愛の物語です。

その他の登場人物たちも皆生き生きと、一筋縄ではいかないそれぞれの思惑を抱えていて、彼らは、かさねたちを時に助け、時に裏切りもするのですが、それぞれにとても魅力的です。

某文庫で既に作家デビューされている作者さまの長編作品ということを抜きにしても、無料で読むのがおそれ多いほど素敵な物語です。
未読の方は、ぜひ、序章だけでも。気がついたら惹き込まれていること請け合いです!

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白兎と金烏