番外編:銃の取り扱い③

陸上自衛隊に関わる全般教育が新教隊前期に行われるのに対し、後期教育ではその専門職種について教育される。武村の配属された駐屯地は普通科、つまり歩兵なので小銃の他に機関銃、対戦車火器や迫撃砲の取り扱いについて後期教育で詳しく学ぶことになっている。

戦闘訓練にも違いがあり、前期教育では各個前進で最終的には横隊に展開し着剣突撃なのに対し、後期教育では【組前進】を訓練する。組前進とは、1コ分隊につき3コ組(1組3名)あり、分隊長の指揮の元それぞれ支援しあって前進する。

小銃組(LAM携行)、機関銃(MG)組、84(ミリ無反動砲)の組があり、分隊長はいずれかの組に入るが、これは状況によって変わる。分隊長は敵に戦車が存在するとの情報があれば84の組に、敵の歩兵が脅威であればMGの組に付随し指揮を容易にする。因みに、状況により小銃組を分散して3コ組から2コ組に編成を変える事もある。


「分隊!これから分隊は地雷原通過口に進入後、横隊に展開の後に前進する。順番は左から1組、分隊長、3組2組の順!横隊に展開したら速やかに分隊長に報告!分かったか!!」

陸士長の分隊長が大声で確認を求めると、それに負けじと武村ら分隊員

(新隊員)は「了解!」と叫ぶ。分隊長役は班長のほか、班付と呼ばれる陸士(1士or士長)が務める事もある。班付とは班長のサポート役であると同時に新隊員たちの兄貴役でもある。背は低いが体力検定特級の徽章を付けた班付は、「前へ!」と左手を振ると新隊員たちは「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」と叫びながらスズランテープの張ってある通路(地雷原通過口)を走っていく。

「おらぁ!そんな速度じゃ敵に射たれんぞ!走れ走れ!」

携行火器が小銃しか無かった前期教育とは違い、後期教育では小銃手はLAM(110㎜個人携帯対戦車弾)、機関銃手はミニミ、砲手は84㎜無反動砲を装備している。いずれも小銃の様に軽いものではなく、特に小銃手はLAM(射撃装置付き)+小銃なので重い上にかさばるので動きづらい。

機関銃手の武村はその中でもマシな方なのだが、それでも重いのに変わりがないのでミニミに付いてる取っ手(キャリングハンドル)を握って走っていると、

「おい武村!銃口が左右に振って危ねぇだろ!銃口は上に向けろ!」と班付に怒鳴られてしまう。

仕方なしに武村はミニミを持ち替えて銃口を上に向けながら走ると、前を走る新隊員たちが左右に分かれだす。武村は2組なので右側だ。息を整え、ミニミを正面に構えると相方である副機関銃手の同期が「怒られてやんの」と小さく笑う。副機関銃手は携行火器が小銃だけなので動きやすい。

「うっせ、お前は小銃だけだからつまんねぇだろ。俺のMGと交代するか?」

「いいや、俺には副機関銃手としての役割があるから遠慮しとくわ」

副機関銃手なんて、射撃の時にベルトリンク持ってるだけか対空射撃の時に両手でミニミの脚抱えてるだけだろ…。

武村が呆れていると、分隊長が次の指示を出す。

「これより分隊は残敵掃討に移る。敵は我の砲迫によりヘロヘロになっているが、これを我々で息の根を止めていく。中にはまだ元気な奴もいるから、射ち返しに注意しろ!なお、これより隊形を維持し徒歩で前進するが敵からの射撃があれば速やかに伏せるなり遮蔽物などを利用して当たらないようにしろ。射撃の統制はしないから逐次反撃せよ!」

そして「前へ」の号令で分隊はゆっくり歩きだす。敵の陣地は丘になっていて所々に背の高い草が塊の様に生えている。武村はゆっくり進み、草むらに注意を置きながら視線を左右に振る。他の分隊員も両隣の間隔を気にしながら進んでいく。

パンパンパンパンパンパン!

突然、乾いた空砲の音が辺りに響き武村たちは一斉に伏せる。立ったままの分隊長は「お前ら、伏せるのはいいけど誰か敵の位置確認できたか?」と分隊員たちに聞く。分隊員たちは両隣にいる同期と顔を見合わせ、敵を見つけたかどうかアイコンタクトする。誰も見つけていないようだ。

「誰も発見出来てないのか?じゃあどうすんだ!」

分隊長が檄を飛ばす。分隊員たちは顔を見合うだけだったが、そのうち一人の分隊員が匍匐してジリジリと進み、草を利用して敵から見つからないよう前を伺う。

敵は隠れては現出し射撃を繰り返している。

「て、敵!前方右側の草むら!」

「お前ら、敵は右側の草むらだってよ。よし、じゃあ2番!お前らであいつら黙らせろ。その他の者は他の敵が現れないか警戒!」

突然の指名で驚いた武村だったが、「副MG。敵が射ち止んだら立ち上がって、射撃の為にまた敵が顔を出して来たら一気に射とうぜ」と伝えると、副機関銃手は黙って親指を立てる。

敵は暫く射って来ていたが、MG組はその間に弾を装填することができた。そして、射撃音が鳴りやむと、MG組はゆっくり立ち上がり右側の草むらを注視する。他の分隊員は警戒のため持っている火器を構える。すると、注視していた草むらが一瞬揺れると、草で偽装されたテッパチ(88式鉄帽)を被る敵が現れ小銃を構え出そうとする。その瞬間、武村はミニミを肩付けしフルオートで射撃する。

撃発するたびに方に軽い振動が伝わると、敵は射撃をやめ身体が後ろに倒れる。

「分隊長!敵を制圧しました!」

「よーし、じゃあ前進再開。2組は敵がいた草むらを通過する際は他に隠れている敵がいないか警戒」

武村はミニミの安全子(セーフティ)のボタンを押すと、副機関銃手にアイコンタクトして再び歩き出した。


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陸上自衛官の日常 たけざわ かつや @Takezawa

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