第2話 小さな決意
お母さんに、今日、めちゃめちゃ怒られた。車に乗っていて、思わず寝ちゃってて、お母さんに「着いたよ」って起こされて、眠いからめちゃめちゃ機嫌が悪くって、思わず助手席の背中をバコバコ蹴っちゃったから。
その時、お母さんは「そんなことをする子は知りません!」と怒った。「そんなことをしていたら、お母さん、家を出て行くよ!」とも言った。
うちのお母さん、何かにつけて「出て行く」って言う。本当に出て行きたいのかな。親友のKくんのママは出て行ったけど、うちのお母さんは、出て行かないよね。
えーと、うちのお父さんは短気だ。誰とでも、すぐケンカする。コンビニとかでも、店員さんや他のお客さんと喧嘩するから、僕たちはいつもドキドキしている。そして、怒鳴る。お母さんは「怒鳴らなくてもいいでしょ」とか「そんなに怒らなくてもいいでしょ」とか、いつも言ってる。お父さんは「俺は怒ってない」って言うけど、どう考えても怒って怒鳴り散らしてる。でもね、そう僕が言うと、お父さんは僕にゲンコをはる(←拳骨で頭を叩く)から、絶対言わない。そうじゃなくても、何かにつけて、お父さんは僕に怒鳴る。お母さんにも文句ばっかり言ってる。
僕はお父さんが怒るのに慣れちゃった。そして、母さんは、最近、お父さんを相手にしてない。ほとんど無視だ。
今日はお父さんが出張でいないから、お母さんと2人で食事だった。サラダとシチューを食べながら、お母さんが突然聞いてきた。
「さっき、どうして蹴ったの?」
僕は「ムカついたから」と答えた。
すると、お母さんは突然、声の感じが変わった。
「ムカついたら、蹴っていいの!?モノだったら蹴っていいの?」って、目がつりあがってる。
「お母さんは、嫌なのよ、あなたがモノを蹴ることが、あなたもお父さんと同じなの? なんでも力ずく、なんでも暴力で表現する。恐怖で支配しようとする。蹴っているあなたを見ていると、怖くなるのよーーーあなたもお父さんと同じなんて! 私はね、嫌なのよ。嫌いなの。怖いのよ!あなたのお父さんが❕あなたも同じなの?あなたも私を罵って、叩くの?蹴るようになるの?」
お母さんは、「怖いのよ」ってブツブツ言って頭を抱えている。「お父さんがいないから、今日は平和に過ごせると思っていたのにーーー」とも。
「やっぱり許せない!」
大声で、突然、お母さんは椅子から立ち上がった。「男はみんなそう!あなたはいつか私を殺すのよ。お父さんの血が流れているんだもの。やっぱり出て行く。こんな家になんていられないから。」
「お母さん!待って!僕はお父さんと違う!怒鳴らない! もう絶対蹴ったりしない!お母さん、お願いします!出て行かないでください!お願いぃ---!」
僕は思わずお母さんの前に回り込んで、お母さんにまとわりつくように抱きついた。
お母さんは立ち尽くし、赤ちゃんみたいに泣いていた。僕はなんだかお母さんがとてもかわいそうになった。「お母さん、僕が守るよ。お母さんを守るよ。だから、もう泣かないで」
僕の頭の上にお母さんの優しい手を感じた。
「ありがとう。ごめんね。」
それから 冷めたシチューを二人で食べた。
今日のことは 誰にも言わない。内緒にしておくことにした。お父さんが知ったら、大変なことになるから。お母さんを守るのは、僕の仕事だからね。
モンスター☆ペアレント @lovelychiechie
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