麻月家の変様

「大丈夫ですか……っ!」


佳奈の母親へと駆け寄った琥珀は、彼女を助け起こすべく手を差し出す。が、


「 …こりゃあ、ひどいな」


その手が、途中で止まった。佳奈の母親ーー麻月和泉かずみの腕や脚には、明らかに転んだ際の擦り傷ではない、複数のあお痣があったのだ。

琥珀は急遽自身も座り込み、肩に掛けていた剣術の道具の中から治療用のガーゼなどを取り出す。


《琥珀 応急手当→成功》

《回復ロール1d3→3》


「麻月さんに配布物を届けにきたんですけど…何か、あったんですか?」


ややあって、テキパキとした所業で傷の手当手を終えた琥珀は、改めて彼女へと問いかけた。


「……貴方は、佳奈のお友達?」


琥珀が頷くと和泉は沈黙し、やがてぽつりぽつりと、静かに語り出した。


曰く、三日前から佳奈の様子がおかしくなったと。異常な食欲で何でも食べ、少しでも口ごたえすると家の中で暴れ出す。まるっきり人が変わってしまったようだという。

そしてそこまで話すと、和泉は顔を覆って泣き出してしまった。


「…三日前、麻月になにかあったのか?」


琥珀が彼女の背中をさすりながら思案していると、近くまで寄ってきていた霧切がそう問うた。


「三日前…」ポツリと呟いた和泉はしばし沈黙し、やがてゆるゆると首を横に振る。


「三日目は特になにも……いつも通りだったのに、突然…」


「その前に、何処かへ出かけたりはしてましたか? それとも家で突然…?」


琥珀も問うが、前半部分は首を横に振り、後半部分首肯で返した。

そうこうしているうちに再び啜り泣き始めた和泉に、


「と、とりあえずご自宅でお話をしませんか? このまま外にいるのもなんですから…!」


と琥珀がそう提案したことにより、一行は麻月宅へと場所を移すのだった。


***


「…どうぞ」

「「お邪魔します」


和泉に続き、麻月家の扉をくぐる。


《盗子 隠れる→成功》


そこで。盗子はちゃんと着いて来てるだろうか? ふと疑問に思い振り返った琥珀は、


「……」

「……」


扉の陰から、さも今一緒に入りました風に最後尾に並ぶ盗子と目が合った。


(………なにしてんのお前)

(……べ、別になにも盗ってませにょ?)


あ、現行犯だコレ。


《琥珀 DEX対抗 盗子→失敗》

《盗子 DEX対抗 琥珀→成功》


琥珀はサッとポケットの携帯に手を伸ばすが、それを上回る速度で腕をガシッと掴まれた。ニッコリと盗子が笑う。無駄に美しく上品な笑顔だった。


「あれ、その方は…?」


と、そこで。さっきまでいなかった筈の盗子に和泉が気付いた。気付かれる___思わず琥珀の額に冷や汗が浮かぶが、


「さっきから後ろにいましたよ? あ、申し遅れましたが、私は忍隠盗子と申します。どうぞよろしくお願いします」


《盗子 言いくるめ→成功》


「そ、そうだったかしら。ごめんなさいね、最近ショックが多すぎて…」


和泉は盗子の言を簡単に信じてそれ以降追及してはかなかった。


(……何故だ)


唖然とする琥珀の疑問、その答えは神のみぞ知っているのだ。当然、ダイスの女神様である。

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けいおす☆ている 結いかごめ @yui-kagome

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