友の変質
時刻は放課後。場所は学校内の食堂だった。
「いい? 佳奈。それはネズミ講と言ってね……」
そのなかで。固まってなにやら談笑している、数人の男女の姿があった。彼ら彼女らこそ今作品の探索者達、ハイドラ高校ニ年生の面々である。
ことの発端は昼休み。彼女らの内の一人__
故に親友である麻月の対面で少女ーー
《天川 説得→ファンブル》
「…それにね佳奈。なにも代償がないっていうのも可笑しな話で_____」
『つるっ』と、唐突に。熱弁のあまり力み過ぎたのか、天川が啜っていた熱々の
「あ…」
「は…?」
華麗に宙を舞った熱々のお蕎麦はそれはそれは美しいアーチを描き_____隣に座る少年の頭へと着地する。
「____っ!? っちいぃぃぃぃ!!?? なにしやがんだ天川ぁぁぁ!!」
《ダメージロール1D3→3》
頭からお蕎麦を浴びた少年ーー
「ちょ、タオル!タオルくれ!!」
「ご、ごめん…今拭いてあげるから、とりあえずこっち来てっ」
「熱い、まじ熱い…禿げる」と若干の怨念を込めて呟く琥珀が天川に連れられて食堂の外へとでていく。どうやら洗面台へと向かったようだった。
《天川 応急手当→成功》
《回復ロール1D3→1》
その騒動を眺めて、天川の対面で熱弁を受けていた佳奈はクスクスと笑い…
「うーん、そう考えるとやっぱり怪しいもんねぇ」
そう呟くとパンッと手を叩き、
「じゃあこの話はここまでにしよう!私今日はもう帰るから、」
言いながら立ち上がった彼女はふと、思い出したように某和菓子店の包みを友の前に差し出した。
「これは…和菓子、ですか?」
「だな…しかも結構高い店のやつだ」
席に残る友人の一人、
「美味しそうだから買っちゃったんだけど、よく見たら麦入ってて私には無理だったんだ」
「よかったらみんなで食べてね?」そう言い残して、佳奈は今度こそその場を後にした。
食堂を出て行く小さな背中を眺めつつ、残された者たちは口を開く。
「……麦アレルギーというのも、不便なものだな」
「そしてその真正面でお蕎麦を啜る雫とは一体…」
「……まあ、それが天川だから」
★★★
だがその翌日も。
翌々日も。
翌々々日も。
佳奈が登校してくることはなかった。
★★★
佳奈が欠席を続けて三日目の放課後。琥珀と霧切、盗子の三人は職員室へと来ていた。天川は天文部の部活があるため、この場にはいない。
「じゃあ三人共、頼んだぞ」
「了解しましたー」
担任からの頼みを受け、三人は学校を後にする。頼みというのも、三日間学校を休んでいる佳奈に溜り溜まったプリントの山を届けるだけの簡単なお仕事だ。
学校から徒歩圏内の佳奈の家へと、三人はのんびり足を運ぶ。
道中、葬儀を行っている家の前を通った。チラリと見えた故人の写真。はつらつとした笑みを浮かべるその故人…名は『
「……不憫なことで」
琥珀が思わずそう呟き、一行がその家の前を通り過ぎる時。
丁度葬儀会場から出てきたらしい少女たちが、ひそひそと何事か会話しながら三人とすれ違った。
《琥珀 聞き耳→失敗》
《盗子 聞き耳→成功》
《霧切 聞き耳→失敗》
「屋上から……自殺だっ…」
「…少し前にも……事故に……」
「なん、近…性格変わってたよねー…」
咄嗟のことで耳をすり抜けていったその会話を、しかし盗子だけは断片的に拾えていた。
「あながち不憫でもないかもしれませんよ…、彼女、どうやら自殺したようですし」
「……それはそれで、親不孝なこった」
盗子からの言葉に琥珀は思わず眉を顰め、しかし本来の目的を思い出し直ぐに気持ちを切り替える。
「それよりも、今は麻月の家へ行かなきゃな」
残る二人もこくりと首肯し、三人は繰り出す足を少し早めた。
やがて少し歩くと、目的地である麻月家が見えてきた。だが遠目に、玄関でなにやら揉めている様子が見て取れる。
「おい、少し様子がおかしいぞ」霧切が呟き、
それを合図に段々と駆け足になる琥珀たちは、やがてその事態を目にする。
玄関で揉み合っているのは佳奈と、彼女の母親である
だが仲睦まじかったはずの母娘の姿は既になく……背後から追いすがってくる和泉を、佳奈は無造作に突き飛ばすと、
《琥珀 聞き耳→失敗》
《霧切 聞き耳→失敗》
《盗子 聞き耳→成功》
「尚美ちゃんのお葬式にも行かないで…佳奈、一体どうしちゃったの?」
「ウッセェばばあ!死ね!!」
何事かを吐き捨てると、どこかへ走り去ってしまった。
「おいおい、どういうこったよ…!!」
突き飛ばされた母親へと琥珀が駆け寄って行くのを見るも、盗子は動けずにいた。
去り際に佳奈が放ったあの暴言…、彼女はあのような暴言を吐く性格ではなかったはずだ。
そして、もう一つ気になることもあった。
「……あの、表情は…?」
琥珀たちが最後にみた佳奈の顔は、まるで悪魔にでも憑りつかれた様に_____恐ろしい形相に歪んでいたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます