海辺の波は拒めない。悲しみも喜びも漣と共に浮かんでは消えてを繰り返す

 目に映る一つ一つのものに投影される悲しみの切実さ、終わっても整理できない気持ちが延々と続いていくこと、沈んだ気分の中でも娘はそこにいること、思い出してしまう過去のどうしようもないけど大切なこと……。
 
 傍にいる人をどうしようもなく好きになって、そして離れる時も嫌いになりきれない気持ちが、一貫して切々と伝わってきます。

 それらが静かに、夜のさざ波を思わせるように、綴られていきます。

 好きなものは増えるばかりで、離れてもそれらに縛られる。優しさの表裏とでも言うべきでしょうか。でも、そんな情で身動きがつらくなっている人多いと思うんです。


 読者によって合う合わないはあるかと思いますが、この独特な雰囲気は真似できるものでありません。
 エンターテイメント性の高い、メリハリの利いた分かりやすい作品が求められる商業作品界隈ではなかなかお目にかかれない雰囲気小説です。こういう作品は投稿サイトならではですね。

 私はこの雰囲気に圧倒されました。私には表現できない、しかして分かるところがある切なさに魅了されました。
 日常の些細なことに感情移入できる素晴らしい感性の持ち主なのだなぁと感服しています。他の作品もこれから読んでいきたいですなー。

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