ふらふらとカクヨムのファンタジー作品を彷徨っていた中で巡り合えた、初めて読破した長編小説です。
読み始めたら止まりませんでした。著者様の様々な知識から紡がれる重厚な世界観と説得力、文章力の高さもさることながら、キャラクターがそれぞれとても魅力的でたまりません。
参考文献も拝見しましたが、学びの上で裏付けされた知識で紡がれるお話程、読者の好奇心を擽るものはないと思います。
小説を読んで楽しみを得るだけではなく、知見を得ることもできるという、これほど素晴らしい体験をここで得られるのが勿体なく思える程です。
完結して随分経つ作品とは重々承知の上なのですが、それでもなおレビューを残したいと思うほど感銘を受けました。
著者様が後書きで語っていらしたように、どちらかといえば今流行りのラノベ向きなのではないかもしれませんが、エリザベス・ヘイドンのラプソディシリーズ、並びにデイヴィッド・エディングスのベルガリアード物語のような、そういった作品が好きな方々はとてもぐっとささるお話のように思います。
勝手な事とは思いますが、どうかこの作品が商業誌として本屋に並び、重厚なイラストで描かれた「竜斬の理」のタイトルを眺められる事を、願ってやみません。
竜を手術する。左様な発想は本作で生まれて初めて接した。不肖マスケッター、逆立ちしても、百回生まれ変わっても不可能な超人的跳躍点である。
モノにもよりけりだが、よほど緊急な事態でない限り手術なるものは執刀医だけで行うものではない。麻酔科医、臨床工学技師、看護師といった人々がチームを組む。
であるからには、本作が群像劇になるのも当然だ。語り部の魔法使いも充分に魅力的な人物ながら、一人一人のドラマや背景を鱈腹堪能出来る内容になっている。
個人的には、ミスリルを鍛造していく場面が最も白眉に感じられた。それが単なる刀鍛冶を突き抜けて、国際的な力関係や駆け引きの影響を受けていることも重く厚く語られている。
これほどの大作はそう滅多には目にかからない。本作の作者は、恐らくは旅行から帰ったらサービス精神ふんだんに土産話を隅から隅まで語り尽くすタイプではないだろうか。
いざ、竜退治ならぬ竜治療へ。