弌夜論


「弌夜くんにとって、家族って何?」

 部活前。

 いつもの場所に座り込んでいた弌夜の横に腰を下ろした朔良が、突然問い掛けてきた。

「……」 

 弌夜は首を巡らせ、宙に視線を漂わせる。

 しばらくして、左手の人差し指を空に向けて立てた弌夜が、「これ」と言って朔良の質問に答えた。

「……空?」

 弌夜の指を辿るように、視線を上げた朔良が確認するように再度問う。

 空は少し薄い雲に覆われているが、今日も良い天気だ。

 確かに空は果てしなくどこまでも広がっており、家族の絆という無限の愛情を表現するには打ってつけの答えかもしれない。

 しかし、そう納得していた朔良の耳に、「違う」という否定の言葉が返ってきた。

「違うの?」

 小首を傾げた朔良に、今度は人差し指をくるくる回しながら、「これ」と同じ言葉で弌夜が答える。

「ま、丸? え……何?」

 弌夜の指が何を指しているのか全く分からず、朔良が困惑したように眉根を寄せた。

「空気」

「……空気?」

 オウム返しに聞き返す朔良に、弌夜が頷く。

「どこでもいつでもそばにある。ずっとそばにあるから、いつもはその大切さに全く気付かないけど、ないと生きていけない大事なもの」

「……」 

 素直で真っ直ぐな弌夜の答えに、目を瞠り息を呑んだあと、その意味深さに深く得心し満面の笑みを浮かべた。

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君に降る想いの欠片 aoi @SaToMi

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