正義は誰かを破壊する。だから魔王は正義を破壊する。

現代ファンタジーをベースにされた物語です。

世界の科学力は現代に近いですが、魔王という単語も生きている世界観。架空の国名で漢字が表現されていないので、洋風なイメージがあり海外版現代ファンタジーでしょうか。この独特な世界観が夢中にさせる要因の一つでもありますが、やはり何と言ってもストーリーが丁寧に作り込まれている点です。

戦争によって主人公が母親を殺される。そして復讐に燃える。
このシンプルな出だしは非常に魅力的でした。

どこまで復讐をするのだろう。どんな終わりを向かえるのであろう。

そんな感情で読み進めると思い、1章の半分も読まないうちに違う魅力が生まれてきます。高校生、カラオケなどの現代的な言葉の中に「魔女」という単語。そして読み続けると「魔王」という単語が物語の中心になっていくのです。

主人公は復讐の為に「魔王」になるのです。

謎が謎を呼ぶ展開の数々は読者を飽きさせないでしょう。更に物語の中に伏線が恐ろしいほど含まれていて、いつ回収するのか楽しませてくれます。ずっとずっと前に書いてあった疑問が物語の進行にあわせ紐解かれていく爽快感。そして、圧倒的な作者様の発想力に脱帽しました。

さらに人物の心理描写が無駄なく書かれています。無駄が本当に少なく感じるのは、一つ一つに意味がしっかりと内包されている事に尽きます。その人物象自体が物語のパーツとして大事な歯車で、数多くの登場人物に適格なロールが構成されていました。

緻密な計算と洗練された構成。そして、作者様の筆圧。
そのバランスが読みやすい物語を作り出している。そう感じました。



ここからは私の感想です。
実は復讐を題材にした作品は苦手で、多分最後まで読めないだろうと思ってました。人が憎みあったり、恨みを実行していく物語は避けている傾向にあります。では何故、この作品に手を出したか。それは圧倒的な文字数です。私は長編作品を好みます。理由は簡単で情報量は多い方が妄想膨らむからです。本作は無慈悲な展開が最初からありますが、その心情を深く理解するには相応の情報量がないと上手く消化できないのです。これは私の想像力が乏しいので勘弁して頂ければ……。それよりも読み進められた一番の理由は、どこか残酷な話なのに温かさがある事でした。とても過酷なストーリー展開の節々に作者様の優しさを感じます。本当に節々の隙間から僅かな光が洩れる程度なので期待はしないで下さい。
序盤の序盤からそんな雰囲気を感じる事が出来たからこそ、壮大なラストまで辿り着けたと思います。

こんなにも素晴らしい作品を紡いで下さり、感謝の気持ちでいっぱいです!ありがとうございました!

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