カンザイ砦攻略戦 四日目・幕間


本文

『B班・カンザイ砦執務室にて』


「……なるほど、な。まさか本当にアキサスとライカントの二人を仕留めて来るとはね」


  執務室にある革張りの椅子に腰掛けていたタンラーは、キキョウからの報告を受けて驚き半分、疑い半分で彼女を見つめる。


「はっ。私自身も多少の負傷は受けましたが、なんとか二人の魔甲を解除し、この目で魔甲が剥がれているのを確認しました!」


  常日頃なら、タンラーから懐疑的な視線を送られたら多少なりとも逡巡する彼女。しかし今に限っては、憎っくきライバルを打ち倒し、タンラーの指示以上の成果を挙げたと確信している。

  ここで自信満々に答えなければいつ答えるのだ––––


「ふっ……すまないねキキョウ。どうやら僕は君のことを過小評価していたようだ」

「いっ、いえ!タンラー様に落ち度なんて––––!」


  タンラーは腰を上げ、やや躊躇うようにキキョウへと歩み寄る。そして––––


「よ、よくやったキキョウ。それでこしょ僕の右腕を務めるのに相応しい」

「ふわっ!?!?た、たんらーさま……」


  タンラーはぎこちなく伸ばした手をキキョウの頭に乗せ、恐る恐る撫でる。その顔は朱に染まり、いつもの自信溢れた表情など無く年相応の、十五歳の少年の顔だった。

  そしてそれはキキョウも同じで、直立不動で固まり、されるがままとなっていた。


「……ん、んん!さてキキョウ。A班における最大の強敵は取り払った。君にはこれから残存兵の八割を率いて殲滅戦へと向かってもらう」

「は、八割ですか!?それでは万が一敵が攻めて来た場合守りきれないのでは!?」


  数分の後、いつもの調子に戻った二人は、今後の作戦について話し合う。


「ふっ、敵主力の残りは脳筋ミルカ脳筋マグナ多少頭の回る奴エマリンがいるが、君なら上手く立ち回って殲滅することも訳ない、と僕は信じているのだが?」

「ふ、ふふふ。お任せ下さい!このキキョウ・ユカゲ、タンラー様の期待に必ずや応えて見せましょう!」


 ––––決着の時まで残り「一時間」


『A班・カンザイ砦、前方の森にて』


「はぁっ、はぁっ……よ、ようやく撒いたわね……!」


 アークス、ライカが倒れた後、追撃を逃れる為森の中へと撤退したミルカ達A班。

 彼女達は追手の影が無くなったことを確認し、事前に決めておいた撤退ポイントに集まっていた。


「あら、随分と逃げるのに時間が掛かったじゃないのミルカ。あんたの隊が最後よ」


 ミルカより先に到着していたエマリンが、涼しい顔で迎える。

 しかし涼しいのは顔だけのようで、自慢の金髪は薄汚れ、自慢のツインテールも動きやすいよう乱雑に纏められている。


「悪かったわね……ライカの隊の子たちを連れて来るのに手間取っちゃったのよ」


 ミルカの言う通り、彼女の後ろには軽式遊撃隊の他に、軽式射撃隊の姿があった。

 ライカが討ち取られ、呆然としていた彼らを守りながら撤退するのは簡単では無かったようだ。


「1,2,3……生き残りは七人、か。俺達を入れて残存兵は二十一人だな!」

「……んん?マグナ、あんたは残存兵に入れていいの?」


 ミルカの視線は、上半身裸のマグナの身体へと向かう。

 先程までは肩や腰などに重式魔甲の残骸が張り付いていたが、今の彼にはそれすらも残っていない。


「ん?ああ俺か。心配するな、まだ足が残ってる」


 そう言ってかろうじて残った白銀のブーツを指差す。


「いや、確かにあんたが馬鹿みたいに頑丈なのは知ってるけど……いくら模擬弾と言っても、無傷じゃあ済まないわよ?」

「がはは!いくら俺でもそんなに無理はしねえよ!けどもう最前線を突っ走るのは無理だけどな!だけどよぉ……」


 そう言って彼は後ろに立て掛けてあった分厚いタワーシールドを持ち上げて言う。


「お前らを守るくらいやらせてくれよな?」

「ふふ、なら守りは任せたわよ……っ!みんな!撤退準備!」


 束の間の休息は、遠くに見えた白銀の集団に遮られる。


「あのバカアークスの指示通り、追手を後ろに維持しながら逃げるわよ!」


 そう言ってミルカはアークスより託された指示に従い、逃走を開始した。



「……にしてもあのバカ今頃何してるのかしら?ここまで全部あいつの予想通り・・・・ことが進むと少し怖いわね……」


 ––––決着の時まで残り「五十分」


『A班・???』


「ふーんふふーんふふーん♪」


 ミルカ達が去った後、誰もいない森にご機嫌な鼻歌が響く。

 金色の輝く髪、豊かな胸部、トロンとした瞳。そして何より目を引くのが長大な魔甲ライフルだった。


『いいかいライカ、この魔砲はまだ試作段階でね。大岩を砕くほどの威力が出る反面、その威力に銃身が耐えられないんだ。だからチャンスは一度きり。試し撃ちも無しだ」


  先程魔甲解除されたはずのライカは、しかし悠然と最適な狙撃ポイントを探す。


『この作戦は多分正規軍の狙撃手でも出来ない下策中の下策さ。だけど君なら。魔甲ライフルを誰よりも愛し、狙撃の神様に愛されたライカント・トゥル・フォードになら出来ると信じているんだ』


「ふふーん♪おっ、この木がいいかなー」


 ライカはこの辺りで一際高い木の根元に立つ。


「魔甲機、起動♪」


 そして強制解除されたはずの魔甲を全身に纏うと、一息で天辺まで登り切る。


「うん!ここならアークス君に教えて貰った場所がよく見えるなー。ふふ、あのとき上手に砦を作っといて良かったー♪」


 彼女は不安定な足場にも関わらず、器用に射撃体制へと入る。

 そして初弾に通常弾、そして二発目にアークス謹製魔砲弾を込める。


「よーし集中集中集中しゅうちゅう……そこ」


 三度銃とひとつになったライカは一切の雑念を捨て、引き金を引いた。


 ––––決着の時まで残り「三十分」


『A班・???』


「はぁ……僕泳ぐの苦手なんだよなぁ」


 一つの白銀の人影が水の中へと消えて行った。


 ––––決着の時まで残り「三十分」

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魔甲兵科の旧式術師 はねまくら @hanemakura

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