爽やかだけど一瞬舌にピリッとくる、サイダー味のアオハル物語

 レビューを書きたいと思ってから、少し時間が経ってしまいました。なぜそうなったかと言えば、「たとえ短い感想でも、適当に書き流したくない作品だな」と思ったからでした。バタバタ忙しない日常からいったん距離置いて、落ち着いた気持ちで作品世界を振り返ってみたかった。
 でも、時間を置くことでかえってわかったことがあります。それは、この作品にしかない空気感があるということ。私の恥ずかしいぐらい拙い言葉で現すなら『しんと静かで清々しい朝の空気のような』。あるいは、『夏の日の渇いた喉で一気に飲み干すタイダーみたいな』。
 この物語では主人公の男子高校生が、何を聞いても見ても心が震えない自分自身と向き合い、そこから一歩踏み出すまでのアオハルな日々を追いかけます。何か非日常な出来事が起こって目覚める──的な展開ではない、『言葉』そのもののなかに前進へのきっかけを求めるという切り口も面白く、タグにはラブコメって入ってますが、ほかの大勢の方が書いているラブコメとは、ひと味もふた味も違います。
 機杜さんの作品はほかにも何作が読ませていただいてますが、主人公の年齢に関係なく誰もが「日本刀的切れ味のあるキャラクター」でカッコいいんです。ヒロインの虎子ちゃんも小町ちゃんも可愛かったなあ。征爾君と二人はどうなっちゃうんだろうと、実は最後まで気が抜けませんでした。ドキドキしましたよ、ドキドキ。