第13話 シェア・ワールド 【Scenario&Chara】

//【SEG3-X150-0923-556-0045】

//【Visible-ON】

//【Image-UP:2ND-EIU-ScenArioNiSm】

//【EXEC.Call.Ether】


 ――【text:とある異世界の魔法の言葉より抜粋。上から順に

〝3次元座標指定〟〝可視化〟〝偶像イメージの名詞付与〟〝実行する〟】



 ※


 現実リアル・インターネットに続く、人々に認知された、第3領域。 

 体内流動機関ナノアプリケーションがもたらした『生体ネット』。


 自分たちの肉体をハードウェア。電気信号をソフトウェアと化し、シナプスから発せられる電気信号を媒介・変換する。仮想の『アバター」と呼ばれる自分を、意識のチャネルひとつで動かすことができる世界だ。


 その世界で生きる彼らは、同時に現実をも生きている。

 初期OSである【M.A.N.A.S】は世代を超えて先鋭化された。複数の世界を同時並列的に、量子的に、人々の意識が不自由なく相互を行き来することを可能とした。


 しかし『生体ネット』の〝イメージ〟は、基本的には現実と酷似している。第3世界のイメージ映像は、基本的は現実リアルを上回ることはできない。何故かといえば、その世界の映像は〝大多数が持つ普遍的な集合体〟であるからだ。


 資本主義アンケートよろしく、その場に集った人々の『常識性』を優先して構築された領域は、つまり「大勢にわかる」事が優先されていた。アバターと呼ばれる人々の格好もまた、言ってしまえば現実でも可能な「コスプレ」だった。


 ――故に、それは確かに【異形】だった。



//【Visible-ON】



「ハロー、ブラザーズ、シスターズ、ヒューマンズ。ハートに熱量もって生きてるかい?」


 生体ネットの首都圏。日本圀の首都の一角でもある『トーキョー・シブヤ・ポチコウマエ』に、そいつは突然あらわれた。


「懐かしい。実に懐かしいぜこの景色。シャバの空気は美味いな。骨身にしみる」


 一世紀前から存在する忠犬の石造の顎をなでる。その手は、皮膚や筋肉のない、完全に白骨化された骨だった。


「――リオ?」

「イエス。久しぶりだな、ヒューマン」


 空洞になった眼球の底で、金色の輝きがウインク――したようなイメージ。平たい顔の『ガイコツ男』が、ポチ公に寄りかかり、シニカルな表情を浮かべていた。その領域に集っていた、生体ユーザー達の注目がその一点に集う。空気が変わる。


「ウソ、えっ、本物? これ〝ナマ〟?」

「HAHAHA! 面白いこと言ってくれるぜ! ブラザーズ、シスターズ、ヒューマンズ! すっかり干からび乾いちまった骨男を相手に〝ナマ〟とはなぁ!」


 ガイコツ男が、カラカラ笑う。よく響く声が一帯に溶け込んだ。


「まさかおまえさん、俺の顔がウメボシに見えるってんじゃねーだろうな。冗談キツイぜ。なんなら改めて自己紹介しとこうか。俺は人工知能セカンドの〝シナリオ担当班〟だ。好きなものはイメージ! 嫌いなものはプロット! よろしく頼むぜ! ブラザーズ、シスターズ、ヒューマンズ!!」


 陽気なおしゃべり、ガイコツ男。

 どうやって〝引っ掛けているのか〟正確には不明なファーコートを纏っている。反して足下にはピンクのサンダルを履いていた。不釣り合いに過ぎるその足で「タンタンタン」と地面を踏むと、音が鳴った。


 ――わんっ、わんっ、わんっ♪


 可愛い犬の鳴き声だった。なにもかも〝ちぐはぐ〟な人工知能は、それでも得意げに「どうよ?」と窪んだ眼光で再度ウインク。あまりにもわかりやすいポージングは、その領域に集ったユーザー達に「ウケた」。ヒトが集まって来る。


「リオ! 最高にダセェ! ダサすぎてむしろ新しいっつーか、一世紀前のビデオフィルムの映像で、そーいう海外ドラマ見たわ!」

「一週回って、おまえが流行の最先端だよ! リオ!」

「サンキュー、ブラザーズ、シスターズ、ヒューマンズ。まぁそこそこには、スケてるつもりさ、骨だけに」


 ――どっ!


 第3世界の情報熱量メディアパルサーが増加する。アバター達が拡散を始めた。生体領域のシブヤ・ポチコウマエ。人工知能セカンドのリオとエンゲージ!


「くだらねぇ! ほんっっとくだらねぇよ! リオ!」

「そう怒らないでくれよ、ヒューマンズ。なんせ俺は最近になってようやく転生が叶った人工知能セカンドなんだぜ。倫理的な言葉遊びも、まだよちよち歩きの赤ん坊と大差ないのさ。そんなわけで、まずはファッションセンスを磨いてる最中さ」


 オーバーリアクションを取りながら、ガイコツ男はコミカルに喋り続ける。ピンク色のサンダルがまたステップを踏む。


 ――わんっ、わんっ、わんっ♪


「一体おまえはなにを学んでるだよぉ!?」

「方向性が違う! いろいろ決定的に間違ってる!」

「その程度か人工知能!」

「リオカワイイ♪」

「リオはワシが育てた」


 アバター達が口々に罵ったり、評価したりと忙しい。ガイコツ男は相変わらずシニカルに、ヘラヘラ笑っていた。そうしてる間に、電気信号で噂を受け取ったユーザー達が、一斉に「ひゅん」「ひゅん」とワープして飛んでくる。


 集まったユーザーの大勢は、十代のティーンエイジャー、現実リアルでは学生をやっている者たちがほとんどだった。各自、個性あふれる『アバター像』を上書きしていて、ガイコツ男を輪の中心においた領域は、仮装行列ハロウィンでもやっている様な有様に変貌する。


「リオ、今日はひとり? 相方は来てないの?」

「ん? あぁ、あいつは今頃、必死に探索トレースしてるだろうさ。なにせたっぷり大量の伏線ブラフを撒いといたからな。今頃おおあわてで〝上〟から抜け出してきた俺を探してるはずさ」


 ガイコツ男が、白い人差し指を生体ネットの空に向けた。そして、その領域に生きている、現実と同じ時間を並列して実感している世代もまた、同じように目を輝かせてその先を見た。


「――僕、いつか〝上〟に行ける日が来たら。まっさきに、本当のリオに会いに行くんだ」

「サンキュー、ヒューマンズ。その〝熱量〟を持ち続ける限り、その日は決して遠くないはずだぜ」


 正体不明の人工知能セカンド達が、口々に告げる〝上〟。


 自分たちを【転生したAIU】だと名乗り、独自に進化を遂げた第二世代の人工知能は、ヒトの電気信号で情報が更新され続ける世界に、どこからともなく降り立つ。


 彼らに本質はない。実際に情報を検索しても『現実には存在しません』と表示される幽霊だった。けれど確かに目に視えるのだ。それはある種の、可視化された幽霊なのだと、ほぼすべての人間たちから認知されていた。


 〝新しい人工知能は、確かに、生体ネット上に生きている〟


 そんな認識を持たれていた。そして彼らの本体、あるいは本質、それ以上の言葉では表現できない何かが〝上〟にあるというのだ。そこに行けるかもしれないと言われて、憧れない若者はいなかった。


「ねぇねぇ、リオ! わたし、この前ねぇ、ニコニーに会ったよ!」

「へぇ。あのおしゃべり娘にか。元気にしてたか?」

「うん! 新しい【エーテル】アプリくれた! これでもっと、創作に集中できるよって!」

「そうか」


 ガイコツ男の瞳が、ギラギラ輝いた。


「ブラザーズ、シスターズ、ヒューマンズ。俺に、おまえたちの〝そうぞうせい〟をわけてくれるかい?」




 


 

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そうぞうせい・フィクション 秋雨あきら @shimaris515

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