文庫本では一冊に収まりきらない程のかなり長い作品ですが、首都圏を物語の舞台とした、壮大なミステリー活劇にはどこにも無駄な要素はなく、すべてに意味があり、時には伏線として読者を驚愕させる、ものすごい小説です。ハイレベルな頭脳戦は、無料のWeb小説の枠を軽々と凌駕するレベルだと思います。
これを書くのに、どれだけの時間と下準備を要しただろうと、思わず感じざるを得ません。
アクション、ミステリー、ヒューマンドラマ、コメディ、恋愛要素もありの、とてつもなくハイスペックなストーリー。少し時間はかかりますが、期待を裏切らないと思います。
規制なんて許せない、戦ってやる! という話だと思ってたら逆だった。主人公は規制推進側。
警察と官僚のなんやかんやあり、カーアクションあり、ハッキングあり、謎解きあり、と盛りだくさんの内容。読み出すと切り上げるタイミングに困る。時間があれば一気読みしただろうと思う。
細かなエピソードがたくさんあると、普通ならごちゃごちゃするだろうと思うのだが、どれもきれいに繋がっていて、物語に厚みを持たせている。
登場人物が多いが、キャラが立っているので、こいつ誰だっけ?となることも、混同することもない。
タグはついているけれども恋愛要素はかなり薄い。同僚や他組織とのチームワークの方に重きが置かれていると感じた。得意分野の能力を発揮することでチームとして成り立つってのはいいよね。そのせいで個人的に応援していた人物の陰が薄くなってしまったけれども、まあそれは作者の思いがあるのだから仕方がない。
個人的には、ミステリーというよりは、現代アクションやSFなんじゃないかと思う。謎解き部分よりも、カーアクションやIT部分に心躍った。
車やITに詳しくなくても、注釈があるから安心してほしい。
ぜひ読んでもらいたい一冊。
私は自分の職業柄、官公庁のITにかかわることが多く、NICTや警察との商談に関わったこともある。そのためこうした組織は現実に存在していても、普通は攻殻機動隊の9課やニューロマンサーのチューリングと同じファンタジー組織として扱われているのに多少の違和感があり、読み始める前は少し腰が重かった。
しかしながら、読み始めたらやはり面白かった。キャラクターや構成もさることながら、組織や技術の取材がおそろしく正確で舌を巻いた。さすがにここはファンタジーだな、と思う脚色もあったが、この手のウンチク文章は、たいていプロや関係者が読むと書けば書くだけ恥ずかしくなるような間違いで溢れるのだが、本作は、少なくとも私の理解している範囲では、割り切って意図的にウソを書いている部分以外はとことんまでリアルに見えた。
これはプロの犯行だなと思い、作者のサイトを見たら、やはりwiredに寄稿するような技術系のライターということで納得。
トリックもうまい、展開も早い、文章もクールでキャラクターは格好いい、アクションシーンの疾走感も見事である。奔放で緻密で、情熱的で計算高い。なんか書くなら、このレベルを目指したいものです。
この作品を読んで「カドカワ的には、この作者さん取り逃す選択肢ないだろ」と思いました。俺が編集なら即契約ですよ。こんだけ書ける人を他に探せる気もせんし、その辺の新人捕まえてこれ書けるレベルまで育て上げられる気もしない。
37万字もあって全くだれていません。誇張ではなく「読むモチベーションが下がらないために、文字を追う速度が普段より早い」と自覚しました。あらゆる場面の終わりに興味を引くフックを忘れない心遣いを見せつつ、圧倒的な知識量にうらうちされた筆力、厚みのあるキャラクターと世界を書ききっています。
そう、書ききってる感じがするのです。書くべきこと全部詰め込めるだけ詰め込んで、その全てが面白いのです。
商業作家と比べても引けをとらない文章。エンターテイメント性を失わず、リーダビリティもかなり高め。格闘や狙撃&カーチェイスといった動きの激しいシーンもそつなく書いていました。
ハッカーという題材やネッ禁法という独自の単語から、専門用語の飛び交う物語が察せられて、見た目とっつきにくそうかと思います。でも実際読んでみると、引っかかるところあんまりないです。説明そのものも上手いですが、説明するタイミングも上手いですね。頭の中で前に説明された内容と今説明された内容を結びつけて理解できるよう、情報の並べ方が計算されてる感じがしました。
しかしプロットの精緻や、知能と知能のぶつかり合いのステージの高さもさることながら、単純にアツい。感情を揺さぶられます。この点についてアツいとしか言いようがないんですがとにかくアツい。
ネタバレ回避のためめちゃくちゃ曖昧に言いますが、急加速したらあれが折れて頭めがけて飛び込んできたけどあれが飛び出して身を乗り出したがために助かったシーンに「うおおおおお!」となりました。(伝わるんかこれ)