喪って、でも生きていく

スポーツが得意な健一。頭が切れる誠二。音楽や絵画に才能を発揮する夏。「オール四」的ポジションにいる語り手の裕司。
彼ら仲良し四人が暮らす極めて平均的な街である「真中市」には、「あの人たち」が不思議と多い。エイリアンを呼ぼうとし続けるおじいさん、空き缶を集めて家を作ろうとしている人、家の前で誰に食べさせるでもない鍋を延々と煮込み続けるおばさん、エトセトラ、エトセトラ……そして、日光川の流れるこの街を脅かす「サタンの爪」と戦い続けるヒーロー日光仮面。
裕司たちは日光仮面と比較的仲が良く、人数が少ない時にはサッカーのゴールキーパー役を務めさせ、そしてサッカーの技術がない日光仮面は面白いように点を取られる。

そんな風に始まる物語は、けれど、次第に不穏さを増していく。
小学五年生。神社の中の鏡、夏休みの冒険旅行。小学生の空想と高揚に満ちた冒険は無惨な形で終わり、粘つくような感覚を後に引きずる。
一九九五年。中学二年生。日光仮面に関するとある噂が流れる中での、狂ったような雨と洪水。中学生の幻想と不安はその夜頂点に達し、あまりに過酷な爪痕を残した。
その直後から真中市を覆う狂気と恐怖。裕司たちはそれに決着をつけつつも、新たな代償を払い何もかもが散り散りになる。
やがて迎えた二十一世紀。空虚に生きていた裕司だったが、一本の電話が奇跡を手繰り寄せる。

それぞれの章で風合いが違い、読む際には章ごとに気持ちを大きく切り換えていった方がいいかもしれない。それでも第一章と最終話とが円環をなすように描かれ、読み終えた時には充足感を得られることだろう。
九十年代を中心に、様々な映画や音楽などが四人の娯楽として語られる。それがもたらすノスタルジックな雰囲気も全編に渡り味わいを増している。