ゴミ置き場に放置された、二本の亀裂が入った鏡。そこを通り過ぎるたびに三つに切断される「僕」の姿を、手品の切断イリュージョンになぞらえる導入から、物語は一気に幻想の深淵へと引き込まれます。春の夜、友人が語る「心の欠落」と、鏡の中の歪んだ自分の顔。現実と非現実の境界が、夜の桜とアルコール、そして春の靄によって曖昧に溶けていく描写が実に見事です。静かな恐怖が、足元からじわじわと這い上がってくるような、耽美的な怪作です。
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