第4話 俺と先生と、デート


「先生、締め切り大丈夫だった?」


 五月だけど、もうキッチンカーでかき氷がやってて。

 俺はマンゴーの果肉が乗ったかき氷を、先生はマスクメロンの果肉が乗ったかき氷を頼んで、近くにセッティングされてたテーブル席で舌鼓を打つ。


 俺の質問に、先生は眉間に皺を寄せた。

 今日はいつもより———俺が告白した時よりも丁寧なメイクで———綺麗な先生がそんな表情をすると、余計に厳つさが増す。


「いや、お前。締め切り近かったらそっち優先するからな、私」


「まあ、確かに締め切り前は出禁だもんね、俺」


「お前が見境なしに盛るからだろ」


 ———だって、先生魅力的なんだもん。

 俺がそう言うと、先生は顔を少し赤らめて、視線を彷徨わせながら、自分のかき氷を頬張る。

 ああ、可愛いなぁ。


 なんで、先生ってこんなに可愛いんだろう?




「で?」


「うん?」


「かき氷食べたよな?」


「かき氷じゃお腹いっぱいにならないよ」


 俺たちは、その後、昼食にパンの食べ放題のお店に並んでいる。

 ちなみに、席が空くまで待つ場所は野外なので、微妙に暑い。


「あつ……」


 先生が髪をかき上げながら、呟く。

首筋には汗が一筋流れていて、思わず舐めとりそうになった。

 よく見ると、先生の方から日が照ってて、俺の身体に影を作っている。


「先生、こっち」


「うん?」


 俺は先生と場所を入れ替わって、太陽からも、先生の色気に充てられて目がハートな男どもからも守るように立つ。

 先生が、驚いたように俺を見上げた。俺は先生が八センチのピンヒールを履いても五センチくらいは高い。


「どうした?」


「……先生、暑そうだったから、影になってあげた」


「え、ああ、ありがとう……」


 その後、すぐに俺たちは店内に入れて、俺も、先生も、いつもよりも多めに食べた。

 バイキングだったしね。先生も元取らなきゃって張り切ってくれたし、可愛かったな。


 パン屋もかき氷屋も先生が「おばさんが払ったる」と言って譲ってくれなかった。


 先生は綺麗なお姉さん、なのに。


 でも、映画は俺のおごりで。

 ロマンスもありつつバリバリのアクション系の洋画だった。

 先生が、「この一作目はお前、生まれてない頃じゃないかな」って言ってた。

 先生は一作目観たの?って聞くと、リアルタイムで観てて、一作目からのファンだって言った。


 ああ、嫌だな。

 こういう年の差がはっきりわかるの。


 先生が俺から離れませんように。


 俺は、ひらりひらりと舞う綺麗な羽根のアゲハ蝶みたいな先生を、捉えて決して離さない蜘蛛のようになりたい。


 甘い甘い痺れるような猛毒の、毒蜘蛛に———……。



—第四話 了—

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アゲハ蝶と毒蜘蛛 九浄新 @yorunochika

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