花を呼ぶ風

sui

花を呼ぶ風


小さな村に、不思議な風が吹く丘があった。

その風は春でも夏でも、花の香りを運んでくる。

しかも、風が吹いたあとには、必ずどこかに新しい花が咲いているのだ。


ある日、寂しそうにしていた少女が丘に座っていると、

風がそっと彼女の髪を撫でた。

すると足元に、小さな青い花が芽吹いた。


「ありがとう」と少女がつぶやくと、風は嬉しそうに踊り、

村じゅうに駆けていった。


その晩、家々の窓辺や道端に、色とりどりの花が一斉に咲き誇った。

村人たちは驚きながらも笑いあい、

翌朝には誰もが花を手に、互いに贈りあった。


――花を受け取るたびに、心の奥がふわりと温かくなる。

風はそれを知っていて、村を巡り続けていた。


やがて少女も気づいた。

「この風は、誰かの笑顔を探してるんだ」


だから彼女は丘に立ち、両手を広げた。

「ここにいるよ。いつでもいっしょに、笑顔を探そう」


風がやわらかく吹き抜け、無数の花びらが舞い上がった。

それはまるで、丘そのものが大きな花畑になったかのようだった。


村の人々はその光景を見上げ、胸いっぱいに笑顔を咲かせた。


――そして風もまた、誰よりも幸せそうに歌っていた。

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花を呼ぶ風 sui @uni003

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