舞台は図書室。「 1分で読める創作小説2025」投稿作品
TKO04
閉館まで後1分
図書委員として。
高校の図書室でカウンター業務を担当していると。
閉館まで後1分になっていた。
俺以外は誰もいなくなった夕暮れの図書室。
閉館の準備も終わって。
そろそろ図書室のカギを閉めて帰ろうかな? と思ったそのときだった。
ガラッと図書室の入口が開いて、女子生徒が飛び込んできた。
図書室の常連さんで、何度も貸出・返却を担当したことのある女子だった。
ハアハアと息をしながら、その子が俺に向かって数冊の本を指し出した。
わかっていたけど、一応「返却ですか」と聞くと、うなずく彼女。
ピッとバーコードを読み込んでみると、まだ返却期日までに余裕があった。
なので、「閉館後に外にある返却BOXに入れてくれれば大丈夫ですよ」と言おうと思ったけど。
スッと、彼女が図書カードを指し出してきた。
「返却時には、図書カードは必要ないですよ」
と俺が言うと彼女は、
「私、急に転校することになって。
今日が最後の登校になるの。
なので、借りてた本と、図書カードを返却します」
と少し寂しそうに言った。
そして、
「……直接会って、本を返却したくて。
いままでありがとうございました!
さよなら!」
と言って、カウンターに図書カードを置いて、入口から出ていった。
「ありがとうございました!」
って!
本の貸出・返却とか、
貸出中の本を聞かれて調べたりとか、
図書室に入れてほしい本のリクエストを聞いてあげたりしたぐらいだけど。
図書カードを見て名前は憶えていたけど、名前を呼んだことはないし。
同じ学年だけど、図書室でしか会ったことなかったし。
言われた内容に驚きすぎてフリーズしてしまった。
ハっと気づいて、慌てて追いかけて廊下に出たんだけど、
もう誰もいなかった……。
残された図書カードを見ながら、改めて名前を確認して、
「この謎解き、むずかしくないといいんだけど」
と誰もいない図書室でつぶやく。
名前以外よく知らなかった女子に、
告白めいたことをされたぐらいで舞い上がってしまうなんて。
我ながら、恥ずかしいけど。
いまさらだけど。
好きになってしまったんだから、しょうがない。
「このミステリーは、図書員の名にかけて、かならず解いてみせる!」
と、心に誓ったある夏の日だった。
Fin.
舞台は図書室。「 1分で読める創作小説2025」投稿作品 TKO04 @TKO04
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