残された者達
第38話 動き出す者達
夕闇の馬場建設事務所に小林と峯岸、藁谷が帰ってくる。
小林が携わっていた栗原の旅館の内装は栗原の失踪により作業中断となり、最近では小林も峯岸と藁谷の現場に入っていた。
「小林さんも災難だな…。あんなに苦労した現場がストップしちまってさ…。」
「状況が状況だからね…。栗原船長が無事である事を祈るだけでしょう。」
小林は動揺する事もなく、運転手の峯岸に応える。
「馬場さんに入沢君…そして栗原船長…。いよいよ呪われて来たよな…馬場建設も…。」
「おいワラちゃん、縁起でもない事言うなよ…。」
峯岸は苦笑いしながら後部座席の藁谷に言った。
峯岸も物騒な事が頻繁に起きる中で、藁谷や小林と残った馬場建設の仕事を終わらせるべく、その日もいつも通りに働き、いつも通りに事務所へ戻ってきた。
そして、いつも通りに妻であり、事務員でもある由紀と共に帰宅するはずだった。
「あれ?ハイエースが無いぞ…」
事務所の駐車場でそれに気付いた小林がすぐに二階へと上がって行った。
由紀を迎えるのに車を置いた峯岸だが、妙な胸騒ぎを感じて小林を追った。
事務所内はかなり荒らされており、由紀の座るデスクには何か刃物を突き立てられた跡も残っていた。
「こ、小林さん!こ、これは一体!?」
呆然と立ち尽くす小林に、脳の理解が追い付かないと言った表情で峯岸が詰め寄る。
「何者かが…この事務所に立ち入ってやったようだ…。」
「ゆ、由紀は?由紀はどこに…。ねぇ、小林さん!由紀はどこに行っちまったんだよ!」
混乱した峯岸は、小林の肩を揺さぶる。
「峯さん落ち着いてくれ…。俺にも何が何だか分からない…。考えたくもない状況だ…。」
「ま、まさか…山田が?山田がまたやって来て…。馬場さんだけじゃなく、由紀まで…。」
「落ち着くんだ峯さん!まだ由紀ちゃんが拐われたと決まったわけじゃない…」
小林は真剣な眼差しで、震えながら涙まで浮かべる峯岸を落ち着かせる。
「血の匂いがするなぁ…。」
言いながら二階へと上がって来る藁谷。
「ワラちゃん…どういう意味だ?」
「うん、馬場さんの時もさ、実は匂ってたんだけど、こりゃ確実に鉄分混じりの血の匂いだわ。」
真剣な小林に藁谷は、笑みを浮かべながら応え、それに掴みかかって行く峯岸。
「ワラちゃん!じゃあ、やっぱり由紀は…。山田の魔の手に…。ううっ、くぅぅ…。」
峯岸は泣きながら藁谷から崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「ワラさん…あんたは一体?」
冷静沈着な藁谷の行動に小林は疑問を投げた。
「ああ、誰にも言ってなかったが、昔なんちゃって探偵みたいな事やってたんだよ。探偵なんて面白そうだなってやってみたんだけどさ、来る依頼は猫探してくれだの、小鳥探してくれだの…アイドルのイベントに代わりに並んでくれだの、ろくな仕事来なくてさぁ。」
「探偵だったなんて…。」
「ほら、馬場さんに話すと一気に話でかくなっちまうから内緒にしといたわけよ。」
陽気に鼻を掻く藁谷に再び突進していく峯岸。
「ゆ、由紀は…由紀はやはり…。」
峯岸は泣きながら藁谷から崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「峯さん、あんたには散々仕事で世話になった…。勿論由紀ちゃんにもだ…。ここまで来たらよぉ、警察も当てにはならねぇ。犯人は山田かどうかも分からねぇが、一緒に奴を探そうぜ!」
「ワラちゃん…。」
陽気に笑いながら峯岸を励ましながらも、藁谷の腸は煮え繰り返っていた。
「馬場建設は俺の居場所…。その居場所を奪った犯人を俺は許さねぇ…。」
そんな二人の肩に手を置く小林。
「及ばずながら…俺も力を貸すよ…。どうせこの状況じゃ仕事も薄くなる…。」
「こ、小林さん、有難う…」
峯岸は泣きながら二人に感謝の意を示す。
「一先ずハイエースの行方を探そう…。その車を持ち去った奴がどのみち犯人だろうからね。」
峯岸に代わり、運転席に付いた小林は峯岸と藁谷と共に近隣へと車を走らせる。
静まり返った馬場建設の事務所の壁に、黒ずくめの二人組がロープでへばりついている。
「危なかったなぁ…。もう少しで見つかるとこだったぜ…。」
「やべぇな…。探偵崩れまで居るなんて聞いてないぜ…。」
「兎に角俺達はブツさえ手に入れりゃ良いんだよ…」
黒ずくめの一人が背負う大きめの殻袋から僅かに血が滴り落ちていた。
サイコパス山田(仮) 大田商会 @rollingfight13
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