認知機能に関するテスト
石野 章(坂月タユタ)
人を呪わば穴二つ
北宮和志(十八歳・車真高校三年一組)
あの日のことを、何度思い出しただろう。校舎の屋上で、風が強く吹いていた。
気づいた時にはもう、彼女は体を傾けていた。俺は手を伸ばした。必死に。でも、届かなかった。
あの時の音が耳から離れない。鈍く、湿った、地面を打ちつける音。茉莉はもういないけれど、その音だけが全身に染みついている。
俺たちがあんなことをしなければ。出来心だったんだ。由衣に仕返しをしてやろうと……茉莉を少しでも楽にしてやろうと……。それだけのつもりだったんだ。
確かに、いじめはなくなった。けれど、由衣が死ぬなんて望んでなかった。ましてや、あんな死に方を……。そんなこと、俺は願っていない。
それに、どうして茉莉まで……。でも、あれは俺のせいじゃない。俺のせいじゃないんだ。
もう逃げられない。
ぐちゃり……べちゃっ。
***
桜井奈々子(同上)
茉莉はいじめられていた。
それは、誰が見ても明らかだったのに、誰も止めなかった。由衣が机を蹴飛ばし、靴に画鋲を仕込んで、給食のスープに消しゴムのカスを入れて。茉莉はそれでも耐えていた。由衣が声を上げて笑っていた。その顔が、今でも頭から離れない。
私たちは助けたいと思っていた。でも、由衣に逆らう勇気はなかった。和志が「呪いをかけてやろう」なんて言ったとき、冗談だと思った。ただの都市伝説のひとつ、コックリさんみたいな良くあるやつだって。
だから、みんなで夜の教室に忍び込んだ。黒板に名前を書いた。手を合わせて、決まり文句を唱えた。最初は笑っていた。馬鹿げてる、こんなの、ただの遊びだって。
でも、ふいに黒板に書いた文字が揺れた。怖くなってやめようとした。でも、もう遅かったのかもしれない。
数日後、由衣がトラックに轢かれた。タイヤが何度も踏みつけて、ぐちゃぐちゃにしていった。
でも、それだけじゃ終わらなかった。茉莉が次第におかしくなっていった。急に叫びだしたり、鏡を割ろうとしたり、窓から空をじっと見つめたり。そして……学校の屋上から飛び降りた。
私は見た。地面に叩きつけられた茉莉の体。皮膚が裂けて、骨が砕けて、目も鼻も口も混ざり合って……。それでも、茉莉だと分かってしまった。
今、私は……鏡を見るたびに震える。無意識に、自分の顔を確かめてしまう。潰れていないか、崩れていないか。そんなこと、あるはずないのに……。
私は、どうかしてる。きっと。
どろ……ずぶり。
***
安村徹(同上)
なぁ、やめろよ、無駄だ。意味なんかないんだ。俺たちはもう終わってるんだから。
あれから、ずっと視線を感じる。部屋に一人でいても、目を閉じても、眠っても……必ず誰かが覗いてる。
あれは、儀式の時だ。「由衣をどうしたい?」って誰かが聞いた。
茉莉が答えた。「もう顔も見たくない」って。
それで……それで……黒板の文字が動いた。勝手に。にじんで、笑った。音がした。声がした。誰のでもない声。うしろからか、前からか、耳の中からか……わからない。顔を押しつぶすみたいな音。砕ける音。割れるおと、おと、おと。かお、かお、かお。つぶれて、ひろがって、ぐちゃぐちゃ、ぐちゅぐちゅ。のど、のどのうしろでな……あ、ああ……。
軽はずみに望むんじゃなかった。誰かを無闇に傷つけようとすれば、その痛みは必ず自分の方にも返ってくる。もっと早く気づくべきだった。人を踏みにじることは、ただの遊びや気まぐれで済むものじゃない。冗談のつもりでも、そこに込めた意志は消えない。それは確かに溜まり、膨れ上がって、いずれ自分を押しつぶす。望んだ瞬間に、その矛先は自分にも突き刺さる。俺たちはそれを選んだ。覚悟もなく、笑いながら。
その結果が、これだ。
……おまえの顔も……もう見たくない。
めき……ぐず……。
***
上記の文章を読んで、以下の問いに答えなさい。
問1. 傍線部「俺のせいじゃないんだ」という表現について、最も適切な解釈を以下から選べ。
① 語り手は事故であると自分に言い聞かせている
② 語り手は友人に罪を着せようとしている
③ 語り手は自分の犯行を否定しきれず、精神が崩壊している
④ 語り手の目の前には“何か”がいた
問2. 傍線部「無意識に、自分の顔を確かめてしまう。」という表現について、最も適切な解釈を以下から選べ。
① 死んだ二人の顔が判別できないほど損傷していた
② 願いの言葉「顔も見たくない」が現実化した
③ 語り手が二人の死に様を直視することを避けた
④ 語り手の顔が既に異形のものに変わっていた
問3. この文章全体の構造から読み取れる「三人の関係性」と「結末」を簡潔に述べよ。
***
模範解答
問1. ④ 語り手の目の前には“何か”がいた
問2. ① 死んだ二人の顔が判別できないほど損傷していた
問3.三人は同級生で、いじめられている友人を救うために、いじめっ子へ呪いをかけた。しかしその呪いは跳ね返り、いじめっ子だけでなく、関わった人間すべてを次々と死へと追い込んだ。最後に残ったのは三人だけ。残された録音の後、三人は顔面が判別できないほどぐちゃぐちゃに破壊された状態の死体で発見された。
テストは以上です。
認知機能に関するテスト 石野 章(坂月タユタ) @sakazuki1552
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます