量子論と青春をここまで繊細に結びつけた作品には、なかなか出会えません。

 『シュレーディンガーは未来を詠んだ』は、量子理論×青春群像の化学反応が味わえる唯一無二の物語です。関西の再開発都市を舞台に、孤独を抱えた少女・凪と理系少年・朔が出会い、それぞれの喪失と希望を探していく姿に、胸がじんわり温かくなりました。凪の他者との距離感や、誰にも言えない奇行癖、そこに差し込む人の優しさが、まるで静かな都市の夜に瞬く星のようでした。

 量子観測や都市開発という現代的なテーマを絡めつつ、「観測すること=世界を変える」という深い問いが物語全体に響いています。そして、淡い恋心や、繊細な人間関係、そして時折垣間見える不思議な現象。そのすべてが丁寧に積み重ねられ、ページをめくるごとに登場人物の心の輪郭がくっきり浮かび上がります。

 ふたりの選ぶ未来、そして“光”の正体を、ぜひご自身で観測してみてください。静かな興奮と、やさしい希望が、きっとあなたの心にも届くはずです。

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