B#14「最強タッグ」(終)
日暮れになり、待ちくたびれた後藤は、薄暗くなったリビングの焼け跡に、スマホのライトをかざしながら踏み込んだ。
「おい、入るぞ──って、陽一」
ローテーブルの前で、うなだれるように立っている陽平の後ろ姿に白いライトを当てる。
「なんですか?」
陽平は、まぶしさに目を細めて振り向いた。
「おまえ、除霊にどんだけ時間かかってんだよ」
言われてはじめて陽平は、焼け落ちた天井から斜めに切り取られた空を仰ぎ見る。
薄紫色とも薄紅色ともつかない幻想的な色の雲が、ほのかに残照を帯びて、沈みゆく空にとけていくようだった。
気持ちのいい風が入ってくる。
「すみません。遅くなってしまい、」
「なんだ、勿体ぶるなよ」
後藤はスマホをかざしてずかずかと陽平に詰め寄る。
「ちょっ、まぶし……。いや、それがその、お母さんに会うのはまだこわいみたいで……。それに、外の世界を見たいと言うので、じゃあ、しばらくは楽しませてあげようかと」
「はあ? 好条件で請け負ったのに、どうすんだよ今週末」
望みを失い、後藤は舌打ちした。
「ああ、この家なら解体してかまいません。呪いは解けましたから」
「解けた? なっ、解けたのかよ。俺はてっきり除霊に失敗したのかと。イテッ」
頭を小突かれた後藤は、ハッと後ろを振り向いて確認したが、暗がりには、誰もいない。
ひゃはっ。
「なんなんだよ、おい」
後藤はわけがわからず、やみくもにライトを照らした。うろたえているその頭上に、ふわふわと浮かんでいるのは、黒ずんだアイロンだ。
陽平は背後からすかさずそれをつかみとった。
「……こら、人の頭をぶつんじゃない」
背負っている兄の霊を肩越しに小声で叱る。
「……失礼だろ? これから、この家をつぶしてくださる方なんだから、少しは礼儀をわきまえないと」
後藤が不安げに顔を戻して、目が合った途端に後ろ手でわざとらしく伸びをした陽平にじっとりとした目を向ける。
「なあ……本当に問題なしか?」
「もちろん。この家ならまったく問題ないです。暗くなる前に急いで帰りましょう」
話を切り上げ、陽平は小走りで玄関に向かった。
「あっ、おい、俺より先に行くなよ。ゆ、幽霊なんてこわくないからな、こわくないからな。うわっ」
地面に落ちていたアイロンにつまずいて、後藤はつんのめる格好になった。
「ちょっと大丈夫ですか? 散らかってるので、足元には気をつけてくださいね」
兄弟の笑いが不思議に重なって、廊下に響くのだった。
エンディングB(完)
こわくて踏み込めない世界 私と夢作家 @la-laland
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