「影を絶つ」

人一

「影を絶つ」

「あ~美佳と同じ人を好きになっちゃった。」

親友の彼氏に恋をしてしまった私は頭を抱えていた。

直接「私のために別れて」なんて言えない……でも、諦めたくないしどうしよう。

どうすれば誰も傷つかず穏便に解決できるか考えるが、まとまりもなくグルグルと頭の中は回るばかりだった。

「もう、困った時は神頼みしかないかな。」

そう言って私は、スマホを掴み夜の街へと出て行った。


夕方まで降っていた雨はすっかり上がり、月が顔を覗かせていた。

雨の匂いが心地よい夜は、宛もなく彷徨いたくなるが今日は違う。

人気の無い住宅地を抜けて、裏山へたどり着いた。


涼しげだった街とは一転して、不快な蒸し暑さ苦しめられまばらに整備され歪んだ山道を進んでいった。

夜も遅くだというのに、にじみ出る汗が止まらない。


しばらく進んだ先に、寂れた神社が見えてきた。

昼間でも鬱蒼とした森に隠され、不気味だというのに夜に来ると背筋が凍るほど怖い。

「明日学校サボって昼間に来るんだった……」

静まり返る中にただ存在している社に向かい、賽銭箱に向かい合い、無造作に10円を放り込んだ。

あの大きな鈴はないので、なんとなくの記憶で二度拍手して目を瞑った。

「田中君が振り向いてくれますように。」


――あとはなるようになれだ。

風に吹かれて森はどよめいている。

私はこの不気味な神社から足早に立ち去り、山を下り夜に紛れながら家へ帰った。


翌朝。

美佳に連絡しようとメッセージアプリを開くも、彼女の名前は無かった。

「あれ?ブロックなんてしてないのに……誰かと間違えて消しちゃったかな?

まぁ、学校行ってまた聞けばいっか。」

私は、深く考えることもせず学校へと向かった。


「おはよ~」

「「おはよ~」」

挨拶をしてくれた友人の輪に美佳はいなかった。

周りを見回して美佳の姿は無い代わりに、目を疑うような光景が広がっていた。

教室にぽっかりと穴が空いているように、机が1つ無くなっていた。

確かめるまでもなく、美佳が昨日までいた席だった。

息を吐くのも忘れて釘付けになっていた。


「ね、ねぇ……なんで、美佳の席が無いの?」

「……美佳って、誰?別のクラスのあんたの友達?」

「えっ……美佳は私たちの友達じゃん!昨日まで話してたし。」

そう言うも友人たちは首を傾げるばかりで、その様子は私をからかっているようではなかった。

「それじゃあ、なんであそこだけ机が無くて変なスペースがあるの?」

「ずっと前からそうじゃなかった?それよりさ~」

私は信じられないものを見るかのように、スカートの端を握りしめ立ち尽くしていた。


「そうだ!彼氏の田中君なら、なにか違うかも。」

ハッとしたように顔をあげ、彼のいるクラスへと急いだ。


「僕に用があるって、どうしたのかな?」

「あっ、あ、あの、美佳、美佳って今どうしてるか分かりますか?何かおかしくて……」

「ごめんなさい。その美佳って子が誰か分からないな。聞く人を間違えてないかな?」

彼は、悩む様子もなく淡々と答えた。

「あっ……ごめんなさい……」

私は、逃げ出すように彼の元から走り出した。


学校を飛び出し、夢中で駆け抜けた。

美佳の顔や声、表情がフラッシュバックして胸を締め上げている。

昨晩の願い事が、まさかこんな叶い方するなんて誰が分かるだろうか。

後ろには戻らない現実を激しく悔いたのはこれが初めてだ。


私は誘われるように、気づいたら神社にたどり着いていた。

酷い日なのに神社は、我関せずの顔で森に鎮座していた。

境内に目をやると、真っ二つになった絵馬が落ちていた。

不思議と気になり手に取ると……


『願い事は//えられました

 縁を//りました   』


言いようのない嫌悪感に襲われ、私の胸が激しく鼓動した。

体に纏わりつくような、ベタついた風が吹き抜けた。

膝が笑い、もう立ってはいられずその場に崩れ落ちた。

「美佳……ごめんなさい……」

力なく記憶の中の友人に謝るが、なぜか顔が思い出せない。

「美佳……あれ……美佳って、誰だっけ?」

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「影を絶つ」 人一 @hitoHito93

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