第22話 その場で転生フレームワーク

■■■■ NOTICE ■■■■

※この話は「ウェブ小説霊安室」に保管された供養断片です。

本編化の予定はありません。

もし「まだ生きてる!」と思う方は――

「ささやき、えいしょう、いのり、ねんじろ」

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第1話:はじまりはゴブリンから


「…いや、待てって!マジでそれだけはやめてくれ!」


俺は悲鳴を上げながら、必死にゴブリンの腕を押し返していた。奴の握りしめた棍棒が、俺の頭上で鈍い影を作っている。その棍棒には、妙な生々しさがあった。ただの木だと思っていたが、よく見るとゴブリンの唾液だろうか、ネバネバとした粘液が薄くコーティングされている。その唾液が放つ、草と生ゴミを煮詰めたような独特の青臭い匂いが、鼻腔をダイレクトに刺激してくる。うわ、これ本当にヤバい匂いだな。なんというか、この匂いだけで俺の転生後の人生は絶対に幸せになれないって確信できる。ああ、もうこの時点で負けだわ。


「グガアアア!」


ゴブリンの咆哮が耳を劈く。あー、もうダメだ。俺は観念して目を閉じた。いや、本当に勘弁してほしい。

思えば、こんなことになったのは今朝のことだった。気づけば見知らぬ森の中にいて、俺はただの村人。スキルもない、武器もない。途方に暮れていたら、このゴブリンが目の前に現れた。

まあ、こういう展開はテンプレだ。だが、俺には秘められた特殊能力がある。この能力を使うには、まず「死ななければならない」。

いや、マジかよ!と最初は思った。

死ぬのが転生条件ってどういうことだよ? 殺されたら勝ちとか、それもう人生ハードモードどころかベリーハードじゃないか。

でも、師匠……いや、師匠なんていないから脳内師匠か? 脳内師匠が言っていた。「死ぬのは痛いけど、まあ慣れる」と。

いや慣れるか!死に慣れるってどういうことだよ!?

でもまあ、死なないと転生できないし、死ぬのはちょっとだけ痛いだけらしいし、何より死んで手に入れる能力はとんでもないらしい。

そう、俺の能力は『その場で転生』。

死ぬたびに、近くにいる生物の肉体と知識とスキルを奪って、新しい体で再スタートできる。

ただし、転生先の肉体を操るだけで、元の宿主の魂や意識は眠らせるか、消去される。葛藤は一切なし。

それってつまり、俺が新しい体に乗り換えるたびに、誰かが死ぬってことだよな……いや待てよ。誰かっていうか、そのゴブリンの魂は……。

うわ、なんかちょっとだけ罪悪感。まあでも、殺されるよりはマシか!


そんな連想ゲームを頭の中で繰り返している間に、ゴブリンの棍棒が振り下ろされた。


「ぐわあ!」


鈍い衝撃が頭を襲う。視界が白くスパークして、一瞬、無数の星が見えた。

痛い!痛い痛い痛い痛い!

…いや、待て。これは本当に痛いのか?

いや、むしろ熱い?

頭がどうにかなりそうな痛みが、唐突に熱に変わった。

脳味噌が煮えたぎるような感覚。いや、俺は今、脳味噌に直接お湯を注がれているのか?

やばい、なんか脳みそがおかゆみたいになってきた。トロトロだ。いや、溶けるな、俺の脳。溶けたら知識とかスキルとか保存できないだろ!

……って、もう痛くない。

さっきまであった激痛が、嘘のように消えていた。

代わりに感じたのは、乾いた土と、獣の毛の感触。そして、微かに鼻をくすぐる血の匂いと、さっきまで俺を襲っていたはずのゴブリンの唾液の匂い。

ああ、この匂いだ。草と生ゴミ。これは間違いない。

俺はゆっくりと目を開けた。

目の前には、見慣れた…いや、見慣れたはずのない、俺の死体が転がっていた。

いや、俺、頭が潰れてるじゃん!グロいな!

ああ、よかった。痛覚が残ってなくて。もしこれがそのまま見えてたら、トラウマものだ。

俺は今、ゴブリンになっている。

さっきまで俺を殺そうとしていた、あの青臭い匂いのゴブリンだ。

手のひら…じゃなくて、ゴブリンの手に視線を向ける。ゴツゴツとした、緑色の皮膚。爪は黒ずんでいて、先が少し欠けている。

うん、確かに俺の体だ。今の。

そして、ゴブリンの脳みそ…いや、俺の脳内に、ゴブリンが持っていたであろう知識が流れ込んできた。

「棍棒の使い方」「森の中の食料」「逃げ足の速いウサギの匂い」……

うん、うん、悪くない。でも、俺の死体が目の前でウサギみたいに匂うってどういうことだよ?

とりあえず、この死体をどうにかしないと。

俺はゴブリンの足で、自分の死体を森の中に引きずり込んでいった。


これでいいんだ。

痛みを感じる刹那に、意識が転生先にジャンプする。

だから、深刻な痛みや恐怖は感じない。

死は、単なる乗り換えのトリガー。

よし、とりあえず俺の死体は埋めて、次はどの生物の知識とスキルを奪うかな。

この森には、確か…強いオークがいるはずだ。

よし、次の獲物はオークに決めた。

とりあえず、このゴブリンの知識を使って、オークの縄張りまで行くぞ。

そして、わざと負けて、オークを乗っ取ってやる。

俺の『負けて強くなる』人生は、まだ始まったばかりだ。




【診断結果】

バランスが難しくて中断。

と言う感じで、心肺停止。

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ウェブ小説霊安室 ―心肺停止断片集―【生きている作品があったら教えて下さい】 五平 @FiveFlat

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