暗転。
重低音だけが響く。
――巨大ロボットは、動かない。
そう言われてきたのは、
“慣性”という物理の壁が、あまりにも分厚かったから。
けれど。
画面に、薄い光。
整備区画に立つひとりの青年――技術開発者、御影湊。
彼が口にするのは、ありえない理屈。
「レバガチャ操作で動かします。……普通に」
常識の崩壊音。
だが、湊の“合理”は、世界をまだ半分しか見ていなかった。
静かに歩み寄る少女。
パイロット候補、九条葵。
彼女の胸の奥には、
湊にさえ言えない――密かな片思い。
その感情は、
制御AIが最も恐れる“ノイズ”のはずだった。
しかし。
イリス起動試験。
レバーを握る葵の手が震える。
瞬間、機体が――
立った。
重力に抗う巨体。
解析画面には、ありえない数値。
《シンクロ率 100%》
湊
「……馬鹿な。意図が、一点に収束している……?」
葵
「湊くん……守りたい、って思ったら……」
イリスが走る。
跳ぶ。
攻撃を回避する。
レバガチャ操作――
それは“粗い命令”。
だが感情フィルターAIが補正し、
バランス保持AIが慣性を粉砕し、
巨大ロボ《イリス》は、
片思いを動力源として成立する。
外部勢力が迫る。
破壊か、証明か。
選択を迫られる二人。
湊
「君がいなければ……このロボは立たない」
葵
「じゃあ――一緒に、世界の常識変えよ?」
爆発。
衝撃。
静寂。
そして。
朝日の中で、黄金色に立つイリス。
巨大な影のその中で、二人の影が、そっと重なる。
レバガチャ操作巨大ロボは、片思いで立つ ― 感情同期システム《イリス》開発録 ―
2025年12月10日 00:00 公開
“動くはずがない”を、動かす物語。