夜の小さな友だち

花夏美

夜の小さな友だち

夜の公園は、昼間とはまるで別の顔をしていた。街灯の光がやわらかく地面を照らし、落ち葉の匂いが静かに漂う。ユイはふと思い立ち、一人で夜の散歩に出た。


歩きながら、ふと落ち葉の間に小さな光が揺れているのに気づいた。目を凝らすと、それは手のひらに乗るほど小さな、丸く光る存在だった。


「…なにこれ?」

ユイがそっと手を差し伸べると、光はふわりと彼女の指先に止まった。小さな声で、「迷ったの…」と聞こえる気がした。


「あなた、誰?」

光はほんの少し震えて、自己紹介した。「ルミ…夜だけ現れる小さな精霊なの」


ユイは驚いた。けれど、妙に安心する気持ちもあった。公園のベンチに腰かけ、二人はしばらく黙って夜の静けさを楽しんだ。


「ねえ、ユイ。お願いがあるの」

ルミは小さな光を揺らしながら言った。「この町の小さな困っているもの、手伝ってほしいの」


ユイは少し考えた。けれど、ルミの頼みを断る理由はなかった。「うん、わかった」


まず、近くの花壇の中で一匹の子猫が迷子になっていた。ルミが教えてくれたおかげで、ユイは子猫を優しく抱き上げ、近くの飼い主の家まで届けた。


次に、夜の遊歩道で倒れかけた小さな自転車を見つけた。ルミの光に導かれるまま、ユイは自転車を元の位置に戻す。


小さな行動を積み重ねるうちに、ユイの胸にはぽっと温かい光が灯った。自分でも気づかないうちに、町の中の小さな優しさに触れ、心がふわりと柔らかくなっていく。


「ありがとう、ユイ」

ルミがささやく声は、夜の風に溶けて消えた。

「また明日も会えるかな…?」

ユイがそう思った瞬間、ルミの光はゆっくりと消えてしまった。


朝になり、町はいつも通りの景色に戻った。でもユイの心には、小さな光が残っていた。見えなくても、確かにそこにある温かさ。


ユイは小さく微笑み、今日も少し優しくなれる気がした。

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夜の小さな友だち 花夏美 @Nyra

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