森のクマさん
ヒマツブシ
森のクマさん
ある夜、友人に誘われ心霊スポットに行くことになった。
「最近、地元の友達が行ったら凄かったらしくてよー」
話の流れで付いて来てしまったが、街灯の光の届かない森の中。
すでに付いて来たことを後悔していた。
しばらく進むと道は、整備されてない獣道のように荒れてきた。
「昔は木こりとか使う道だったみたいで、今は奥まで行く人いないから野生に戻って来てるな。
とりあえず行けるところまで行ってみようか」
ガサガサガサッ
道の奥の方で音がした。
足を止め息を殺す。
「ちょっとだけ見てくる。ここで待ってて」
「お、おい、気を付けろよ」
友人が闇の中に消え、1人で待つことに。
(ここで待つくらいなら一緒に行けばよかった)
しばらく待つが、友人は戻ってこない。
ガサッ
闇の中から人影が現れた。
友人ではない男がこちらに来る。
「すいません、誰かここ通りませんでしたか?」
話を聞くと、男も友人とこの場所に来たが逸れてしまい、奥まで探しに行くも見つからなかったそうだ。
こちらの事情を話すと、奥では誰にも会っていないとのことだった。
「何か変だ! とりあえず君は逃げた方がいい。
電波の通じるところまで行って警察に連絡してくれないか?
誰かが戻ってきた時のために俺はここにいる。
さあ、早く」
追い立てられるようにその場から離れた。
(あの奥に何があったんだ。あいつは無事なのか?)
半ばパニックになりながらも来た道を引き返す。
しばらく歩くと後ろから足音が聞こえた。
後をついてきているような音。
振り返っても姿は見えない。
友人かと思い、「おーい」と声をかけるが反応はない。
こちらが歩くと付いてくる音がするが、止まるとその足音も止まる。
怖くなり走り出す。
音も走り出し付いてくる。
街灯の灯りがかすかに届くところまできて、走りながら振り返る。
すると先ほどの男が追っかけてきているのが見えた。
体力が限界になり男に追いつかれる。
「やっと追いついた。これ、落とし物」
差し出されたのは土で汚れたスマホだった。
安堵の息を吐く。
「もう脅かさないでくださいよ。声かけたんだから返事してくださいよ」
「そっちこそ! 何回も声かけたのに逃げるから幽霊かと思ったよ。」
「え?」
(じゃあ、あの足音は一体?)
すると2人の方へ近づく足音がする。
「ここに来るまでに誰か追い抜きました?」
「いや、誰もいなかった。」
「今度こそどちらかの友人かも」
「——いや、実は俺、1人できてたんだよね」
(え? 今なんて?)
足音が近づく。明らかに1人ではない。
2人、もしくはそれ以上の音だ。
足がすくんで動けない。
薮から人影が飛び出す。
「うわあああ」
「おい! 置いていくなよ!」
友人だった。
腰を抜かして地面にへたり込む。
「なんだよ、脅かすなよ」
「お前こそ、勝手にいなくなるなよ!
マジで怖かった」
「いや、お前戻ってこなかったし。
警察呼びに行った方がいいってこの人が——」
周りを見回すと男はいなくなっていた。
男に渡されたスマホを見る。
汚れていてわからなかったが、よく見ると自分のものではない。
電源ボタンを押し画面を見るとメモアプリが起動されていて、
「ありがとう」とだけあった。
画面を見て固まっていると携帯の電源は切れた。
***
友人の話では、音のした奥の方へ行くとボロボロのダンボールなどで作られた住居のようなものはあったが、人の気配はしなかった。
周囲を確認しても他には何もなかったので怖くなって戻ってきたそうだ。
「そういえばここの心霊スポットって?」
「数年前、この辺で自殺をするってスレがあって、そいつはその後行方不明になったんだけど、その場所からは死体が出なかったって話。
そこから霊が出るって噂が広まったんだけど、昔来た時はあんなダンボールとかなかったんだ。
お前が見た幽霊ってもしかして」
***
警察に携帯を届けて事情を説明すると、注意されただけで特に何もなかった。
また事情を聞くかもしれないと連絡先を記入させられた。
数日後、友人から連絡がきた。
「やっぱり出たってよ」
あの森の奥には死体があり、それは最近殺されたものだったそうだ。
「俺たち危なかったかもな」
「…で、スマホの持ち主は?」
「その最初に行方不明になったやつのものらしい」
「ありがとう」と書かれたメモを思い出す。
「幽霊が死体を見つけて欲しかったのかもな」
「——」
「——」
「いや、ちょっと待て。
それが行方不明になったやつの幽霊だとして、そいつの死体はどこにある?
なんで、別の死体を見つけてくれてありがとうなんだ?
そもそもあの時点ではまだ警察にも行ってないし死体も見つかってない」
「——」
「それに、行方不明になったの女だぞ?」
何度もいろいろな仮説を考えたが、あの夜の出来事は、結局、何もわからないままだった。
森のクマさん ヒマツブシ @hima2bushi
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