第26話 御岳山2

七月一八日 一二時〇〇分  


 マップアプリの情報では三〇分となっていたが一時間以上かかってしまった。

 カナコは入り口のインターフォンを押し返答を待つ、呼び出し音が続き、三コール目で電子音声での声が聞こえてきた。

 「はい、特殊因子研究機構でございます。」

 「私、渋谷警察署捜査一課の柊と申します。現在都内で騒がれている連続殺人の件でお話を伺いたいと思いまいり」

 「アポイントはございますか」

 カナコの訪問を拒絶するかのうようにAIによる無機質な返答が言葉を遮った。もともと約束は無いのだ。断られることなど予め想定の範囲内である。しかしここまで来て手ぶらで帰るなど絶対に嫌だ。

 「いえ、約束はしていません。時間はとらせませんので」

 「アポイントのない方はお通しすることはできません。申し訳ありませんがお引き取りください。」

 相手がAIのためかこちらの話に聞く耳を持たない。

 「こちらの場所は進藤さんから紹介いただきました。ここの研究者の方が殺人事件に関わっている可能性があります。少しで構いませんのでお話を聞かせていただけないでしょうか?」

 インターフォンの前でカナコは頭を下げた。普段ならもっと高圧的な方法をとる場合もある。しかし暑さのせいもあるのだろうがなりふり構っていられなくなり懇願するような形になってしまった。進藤からも自分の名前は出さないでほしいと金田から聞いていたのに。

 「わざわざ、このような辺境の地までご足労いただきありがとうございます。今ロックを解除しますので、恐れ入りますが速やかにお入りいただけいますか?」

 少し時間をおいて今度はAIの声ではなく、男性にしては高くよく通る声が聞こえてきた。

 重そうな門がゆっくりと開きカナコ達を招き入れた。言われた通り、足早に研究所の中へ入る。

 私たちはこの研究所から生きて出られるのだろうか?思わずそんな不安がカナコの脳裏によぎった。

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正義の見方 pillow @pillow1921286

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