第25話 御岳山
七月十八日 九時〇〇分
カナコ達は青梅にある御岳山の山道を歩いていた。
「本当にこんなところにいますかね」
「さぁな、シンちゃんの情報を信じようぜ。」
金田が進藤とキャンプに行き詰問した内容によると進藤に怪人に関する情報を流していた人物は御岳山近郊に研究施設を構えているとのことだ。
流石にスーツで行くわけにはいかず、一度準備にため帰宅し、翌日金田がジープでカナコの自宅まで迎えに来てもらった。
車で約一時間半、そこから細い山道に入るためジープを降りて歩くことになった。
金田のジープにはどこで仕入れたのかは不明の武器や銃火器の数々が積んであり、およそ一般の警部が所有できるものではない代物ばかりだ。一体どこで調達したのか分からないがひとまずその準備は全て無駄になったのは確かだ。
(金田さんもし、車が通れたら戦争でもするつもりだったのかな)
金田からは普段警察でも携帯許可が出ている拳銃を手渡された。金田は名称は不明だがカナコより明らかに一回り以上大きいハンドガンを懐にしまっていた。
「まったく、そもそも金田さんがあんな大型車で来なければこんな山道を歩く必要なかったんですよ。」
「うるせぇな、色々準備が必要だったんだよ。」
「準備って何ですか、昨日だってどこに行ってたんですか?進藤の件だって知ってたら私に教えてくれてもいいじゃないですか」
暑さのせいもありカナコは普段から溜め込んでいた金田への不満を口にする。金田も自覚があるのかバツが悪そうな表情を浮かべた。
カナコはハンカチで汗を拭い背中に背負ったバックパックからペットボトルの水を一口飲む。研究所が近づくにつれて心臓の音が大きくなるのを感じた。蒸し暑く、蚊や羽虫が視界や体にまとわりつき鬱陶しい、蝉が四方八方からけたたましく鳴り、精神がガリガリ削られていく
(なんとなくだけど、金田さんといる時は自然というか屋外での捜査多くないか)
現実逃避したくなり遠くを眺める。
四季により様々な景色を眺めることができ、近くではラフティングもできるようだ。夏のアクティビティを毎年挑戦しているカナコは山道の遥か下に流れる清流を眺めながら気を紛らわした。
しかし現実は炎天下の中金田と歩いている。その事実は変わらない。
「今さらですけど、今日ってあくまで話を聞くだけですよ、あんな準備って必要だったんですか?」
金田はあからさまに大きなため息をつき「お前今日ここくる前に場所の確認したか?」と質問で返される。
「しましたよ。だから時間はかかりますけど、こうやって迷わず来れてるわけですから」
「研究所の外観や周辺は見たのか?」
「マップアプリのストリートビューで確認したらモザイクがかかってましたね。一応他にもHPだったり検索をかけてみたんですが。」
カナコはスマホの画面を金田に見せた。ちょうどカナコ達が歩いてる箇所がマップに掲示されており、あと三〇分も歩けば目的地のモザイクがかかったエリアに到着するだろう。
金田は吸っていたタバコを携帯灰皿に乱暴に擦り付けて消す。
「こんな山奥の交通の便が悪い場所にある研究施設は何かしら特別な理由がある、柊、山奥にある施設で思いつくものは何がある?」
「今回のような研究所も含めると旅館や温泉でしょうか?他には廃墟の病院だったり、今パッと思いつくのはそのくらいですね。」
「まぁそんなところか。他にもテロリストキャンプや低賃金労働者のたこ部屋。交通の便が悪い場所に建てるメリットはいくつもあるが、多いのが脱走防止だな。これらの共通点はライフラインが劣悪な環境でな逃げ出す奴が多いんだ。」
金田と話をしているうちに白いドーム状の建物が見えてきた。予想よりだいぶ大きく感じた。
「ドームの方が目立ちますけど、塀も結構な高さがありますね。」
「きな臭くなってきたな、用心しろよ」
研究所の前に到着した時は何か言いようのない達成感がないでもない、これが山頂だったりしたら間違いなく感動していたはずだが目の前の無機質な建造物がそれらの感情を否定した。
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