新城 目線
なっちゃんの部屋から追い出された。
投げ捨てられた靴を拾い、階段を降りてゆく。
「うーん、だいぶ怒らせちゃったかな」
“新城とはキスしたくない”は悲しかった。
でも、あの泣き出しそうな表情、感情を露わにした姿……今でも気持ちは冷めてなかった証拠だろう。自然と口元が緩んでしまう。
つい先程まで一緒にいたベランダを見上げ、今日の会話を思い出していく。
カノジョがいないって信じて貰えなかったなー。
昨日ちゃんと別れたのに。
もっと、なっちゃんに信じてもらえるようにしたら良かったんだけど……気持ちが抑えきれなかった結果だ。早く会いたくて仕方がなかった。
初めて会った時から可愛い子がいるなと思っていたけど、俺とはタイプが違っていて怖がらせないように近付くことは控えていた。
たまたま図書館で一緒になって、案外俺のことを怖がらないんだなと思ったら嬉しくなってどんどん話し掛けるようになった。
そこに恋心なんてものはなくて、ただただ居心地が良かった。
本人はあまり自覚がないようだけど、あの子は庇護欲を擽るタイプだ。おとなしそうに見えて意外と大胆なところもあって、隙だらけで危なっかしい。
俺に告白したのだってその場の雰囲気に飲み込まれた勢いだったと思う。
直ぐに友達でいたいだなんてズルいこと言い出すから、なっちゃんは甘い。
今までみたいに構いたがるのはなっちゃんのためにも良くないかと考えていたけど、本人のほうが気まずそうな顔をしていて、それを見たら2人きりになるのは避けようと思った。
そして、カノジョといても得られない穏やかな時間は、なっちゃんとだから過ごせたのだと結論付けた。3ヶ月くらい要したかな?
最低と罵られたとしても、未練がちっともない恋人とはさっさと別れようと思ったけど、話し合いをしても別れたくないの一点張り。
その間に誰かに奪われやしないか目を光らせていたし、阿川が仄かになっちゃんに好意を抱いていると気付いて遠ざけたりもした。
いろいろ面倒なことはあったけど、それら全てが俺にとって気付きを与えたものだから良しとした。
「ん〜♪」自然と鼻歌が出てしまう。
ほんの数分歩いたらコンビニの明かりが見えてきた。駅からなっちゃんのアパートまでの道のり、女の子が歩きやすいルートはここ1本なのは確認済み。
喉に渇きを覚えてコンビニに入店をし、食べ損ねたアイスとチューハイを選んだ。
商品を眺めながらふと考える。
あの家に残ったものはどうするんだろう? きっとなっちゃんは冷蔵庫を開ける度に複雑な顔をしている。
捨てられちゃう前に誤解を解いて仲直りしなくちゃね。
「ここで通りがかるのを待っていたなんて、あの子は気付きもしないんだろうな」
ガラスに歪に笑った自分の顔が映る。
周りに探りを入れてだいたいの帰宅時間は把握していたけれど、会えるまでいくらでも待つつもりだった。
なっちゃんに触れた指先で自分の唇をなぞる。
あ~あ、簡単には唇を奪えなかったな……。
あそこで拒否してしまうのがらしいといえばらしくて、しょうがないと思う。でも、
「……全部、暑さのせいにして頭おかしくなっちゃえって思ったのに」
まだこの暑さは続くから、次こそは。
君の理性なんて奪われて、この手に落ちてしまえ。
炎暑 音央とお @if0202
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