心霊写真にまつわる証言
@Dr_Kobaia
心霊写真 ならびにそれがある女性に与えた影響に関する証言
はい。
よろしくお願いします。
えっとですね…。
これは私の父から昔聞いた話なんですけど。
なにぶん父ももう亡くなってますからね…。
本当に詳しいお話は、その、できないかもしれないです。
大丈夫ですか?
すいません。
これは父の部下だった方の話なんです。
そうですね、時代は…私が生まれた後だと思うので、平成になるかならないかくらいだと思います。
その方は橋本(仮名)さんという方です。
はい、女性の方です。
えーっと…あの頃に若手の社員だったみたいだから、まあ昭和40年代の生まれでしょうかね。
橋本さんは、普段は普通の会社員でした。
まあ、ちょっと人見知りなタイプではあったようです。
暗い…と言うほどではなかったんですけど、あまり大勢の人の輪には、積極的に加わるようなことはない。
そんな感じの。
でも橋本さんにはね。
ひとつ他人とは決定的に異なる点があったんですよ。
それが分かったのは、毎年恒例だった会社の社員旅行がきっかけでした。
旅行を目前に控えたある日、父は橋本さんが入社してから2年続けて旅行を欠席しているということを受けて、彼女にくぎを刺そうとしたんだそうです。
「今年は必ず来るんだぞ」って。
その時は橋本さんも、笑って「はい」って答えたんですけど、思い返せばその時からどうも様子がおかしかったんですね。
すると翌日、今度は橋本さんの方から父に相談を持ち掛けてきました。
彼女、手にはなにやら封筒のようなものを持っていて、別室で二人きりで話がしたい、と言うのです。
父はすぐに空いていた応接間を借り、彼女の相談を聞くことにしました。
部屋に入るやいなや、なんとも深刻そうな顔で彼女は父にこう言いました。
わたし、写真に写れないんです。
それを聞いて父はあっけに取られました。
彼女がなにを言おうとしているのか、最初分からなかったんですね。
まあ大昔の人は写真を撮られるのを怖がった、なんて言いますけど、現代にそんな迷信を信じてる人がいるとも思えませんよね。
話が見えず困っていると、彼女は手に持っていたその封筒から、数枚の写真を取り出しました。
はい。
それは、全て昔の橋本さんが写ったものでした。
赤ちゃんの頃の写真。
幼稚園の遊具で遊ぶ写真。
遠足とおぼしき場所で撮られた写真。
入学式のセーラー服すがたの写真。
彼女が成長する様子を写した、この一連の写真。
ですが、その全てが明らかにおかしいものでした。
彼女の周りに、不気味なオレンジ色の、光の輪のようなものが写り込んでいたんですって。
それも一つじゃありません。
周りを囲うかのように何個も浮いているような感じだったそうです。
しかもそれは、綺麗な円形ではなく、なんだかある種の生き物のように…なんというか。
グネっと…歪んでいたんです。
どれも見ていて不安になる、とても異様なかたちをしていたといいます。
そうです。
どうやら橋本さんは心霊写真が写りやすい体質だったようです。
社員旅行には、会社のみんながそれぞれカメラを持ってやってきますよね。
みずから写ろうとしなくても、誰かしらが向けたファインダーに、自分の姿が入りこんでしまう、なんてことも考えられます。
それに、機会があれば集合写真だってきっと撮ることになるでしょう。
彼女はそれを恐れていたんですね。
でも…。
でもですよ?
あなた、思いませんか?
ふつう「心霊写真」って言われたとき、もっと恐ろしいものを想像しませんか?
それこそ、幽霊の顔が写り込んだりだとか、写ってる人の顔がぐにゃっと曲がったりするだとか…。
単に写真に輪っかが写り込んでるっていうのは、たとえばフィルムだかレンズになんらかの理由で光が入り込んで起こってしまうとかで、なんか科学的に説明できそうじゃないですか?
まあ、じっさい私は写真のプロではないのでね。
うーん、本当に詳しいことはわからないんですけど…。
ただ、橋本さんのお話しを受けて、父はしばらく頭を抱えたそうです。
さらに聞くところによれば、べつに撮るもの撮るもの全てが心霊写真、というわけでもないのだそうで。
だから、父は彼女をなだめるように言ったんです。
まあ、キミがそうやって怖がるのも分かる。
しかしだねぇ…旅行先で必ず心霊写真が撮れると決まったわけじゃなし。
そうだ。
集合写真には写らなくていいように、私がそれとなくはからってあげるから。
せっかく一年に一度の旅行なんだし、思い切って来てみないか?
って。
そう告げると、彼女は再び写真を指差しました。
そして言ったんです。
課長、気づきませんか…?
…。
そうなんですよ。
実はその心霊写真はね。
ただ写ってるだけじゃなかったんです。
橋本さんは、まず赤ちゃんの頃の写真に写り込んだその光の輪を、ひとつずつ指差して、言いました。
6つ。
次に、幼稚園の写真を指差して。
5つ。
そして、小学校の遠足の写真。
4つ。
……。
…そうです。
…減ってるんですよ。
その輪っか。
ひとつずつ。
そして最後に…。
セーラー服の写真。
…。
はい。
3つしか無いんです。
まるでなにかをカウントダウンしているようなんです。
ここまで来ると、光の加減とかそういう偶然ではちょっと説明が出来ないんですよ。
そして、もしこの輪っかが一個になったら…。
その次は…?
…橋本さんが本当に恐れていたのは、そういうことだったんです。
この不気味な現象に気づいて以来、彼女は写真に写る機会を極力避けて生きてきたんだそうです。
たとえば、証明写真を撮るときなんかも苦労したそうですよ。
どうしても必要なものですからね。
しかし。
その日、話はそこで終わらなかったんです。
橋本さんは言いました。
課長。
覚えてますか?
このあいだ。
会社の設立50周年の式典がありましたよね…?
現役社員は絶対参加だった、あの大々的な…。
そういって、彼女は封筒からさらに大判の写真を取り出したんです。
…。
はい。
その通りです。
式典の後に、社員一同で撮影した集合写真です。
…。
で、これがその実物の写真です。
当時の社員全員に配られたそうです。
父が保管していたものをお持ちしました。
※※この画像はお見せすることができません※※
えっと…この人が橋本さんです。
…。
……。
ほら。
…ね?
どう見ても…。
2個…ですよね…。
…。
…その後ですか?
えっと、それから数年後に橋本さんは結婚し、それを機に会社を退職されたそうです。
もちろんそのあいだ、彼女は一度も社員旅行には行かなかったそうですよ。
ですが、さすがに退職なさった後の動向は…。
はい、もうわからないです。
すみません。
だから、あなたに今日こうしてお見せできるのは、この父の持ってた集合写真だけですね。
はい。
…。
…橋本さん。
きっと、結婚写真も撮られなかったんでしょうね。
そう考えるとお気の毒だなあって、思っちゃいます。
でも…しょうがないですよね。
だって…。
残り一個になったら…。
…もうあとが無いんですから。
心霊写真にまつわる証言 @Dr_Kobaia
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