見過ごされた少女は世界を連れて消えた

音無セイ

第1話 赤い月の夜

第1章 赤い月の夜


リビングの時計が午後10時を告げる。

音は静かに、しかし、確実に少女の胸を刺した。


「ねえパパ、今日の絵本の続きは?」


寝る前に彼女はそうねだったのだ。


「もちろんだともお姫様。」

「でもそれは明日だ、今日はもう夜遅いだろう?」

「それに今夜はルカの大好きな月が出てる、窓の外を見てご覧。」


彼女はカーテンの隙間から夜空をのぞいた。

赤い、まるで血が滲んだかのような月だった。


「怖い、、」


「ルカ、心配いらないよ。月が赤いのは太陽の光が地球の影を通っているからさ」

「パパとママがついてる。」


父親が静かに安心する笑顔でそう告げる。


「それに今日はあなたの8歳の誕生日でしょう?」


「ルカ、起きたら楽しみにしててね。だからゆっくり寝てちょうだい。」


母の優しい声が告げた。


「あ、そうだった。」

自分の誕生日を思い出した時には、期待と興奮で


「おやすみなさい、私たちの宝物。」


柔らかな笑顔で髪を撫でてくれた。ルカはその温もりが好きだった。


ルカは安心して瞼を閉じる。


プレゼントは何だろう、いい子にしてなきゃ。色々な思いが交錯する中、ルカはいつの間にか眠りについた。

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見過ごされた少女は世界を連れて消えた 音無セイ @pro_0909

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