雨上がりの空の下で
平中なごん
雨上がりの空の下で(※一話完結)
カーキ色のカーテン越しに、朝の陽の光が穏やかに室内を照らしている……煩いくらいだった雨音もすっかり消え去ると、ぼんやりとした静寂が周囲を包んでいる……。
その日、朝目覚めると、昨夜降っていた雨ももうすっかり上がっていた。
今年は例年になく不規則でデタラメな降り方をしていたが、天気予報ではそろそろと言っていたし、これで梅雨も明けたのかもしれない。
気怠い身体をのそのそと引きずり、私はベッドから抜け出すとベランダへ出るためのドアの方へと向かう。
陽に透けるカーテンを左右に開ければ、雄大な一級河川の流れが見える……私の住むマンションの部屋は、そんな広い河川敷に面しているのだ。
夜中降っていたこともあり、いつもは細くちょろちょろと流れているだけの川も、今は黄河や長江並に水嵩を増し、茶色く濁った大量の水が滔々と川幅いっぱいに流れている。
私はガラス戸も開けてベランダへ出ると、朝の涼やかな空気の中、そんな大河の流れをぐるりと見渡した。
頭上には散り散りになった白い雲が澄んだ青空に浮かび、雨上がりの朝はじつに清々しい。
「……ん?」
そうして眠気を覚そうと爽やかな朝風に身を晒していると、雨に濡れた河川敷の中に私は緑色のものを見つけた。
最初は繁茂する夏草かとも思ったが、陽光を反射してキラキラと光る川石の中で、なにやらそれはもそもそと動いている。
目を凝らしてみると、どうやらそれは人間のようだった。全身緑色の服を着て、背中に背負ったリュックサックまでが緑色だ。唯一、緑じゃないのは黒いざんばら髪くらいだろうか?
その緑の人間が雨上がりの朝の河原で、独り、ぴょんぴょん跳ねたり、くるくる回ったりして戯れている。
緑の服は自転車レースの選手とかが着ていそうな身体にぴったり張りつくスキニーなもののようだが、何かスポーツをやっているというよりはダンスでもしているかのような動きである。
……いや、ダンスでもないのか……なんだか歓喜乱舞して、勝手に身体が動いてしまっているかのような、そんな印象を受ける。
どうにも無性に気になってしまい、私はさらに目を凝らすと、その人物を観察してみる。
……いや、違う……あれは緑の服なんかじゃない……よくよく見れば、それは服ではなく緑色の皮膚をした人間だ。
それに、背中に背負っているものもリュックサックではない……その丸みを帯びたフォルムに整然と六角形の並んだ模様……背負ってるのは甲羅だ!
さらにざんばら髪の頭頂部は丸く禿げたようになっているが、それは皮膚とは思えない、白い陶磁器の皿のような光沢を有している。
「か、カッパ!」
それは、カッパだった……あのダンスのように跳ねたり回ったりしているのは、先刻まで降っていた雨を浴びて、お皿にもたっぷりの水を満たして喜んでいるのだろう。
「カッパ、ほんとにいたんだあ……」
雨上がりの爽やかな朝の空気の中、私はベランダで独り、しばし呆然とその幻獣を見つめていた……。
(雨上がりの空の下で 了)
雨上がりの空の下で 平中なごん @HiranakaNagon
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