ある女
Kei
ある女
「先輩、今、いいですか?」
「なんだ?」
「ちょっと前に、バーで知り合った女がいまして」
「惚気なら別でやれ」
「違いますよ… まぁ、確かにすごい美人でしたけど」
「それで?」
「流れで自分が警察官だってことを話したんですよ。そしたらその女…」
「昔、人を殺したって言うんですよ」
「ほぉ」
「勿論、話半分で聞いてたんですけど、妙に具体的だったんで…」
「だんだん酔いも覚めてきましてね。付き添うから出頭しろって言ったんです」
「バカだなお前は…」
「そしたらその女、笑いながら、自分は過去を捨てたから捕まらない、って言ったんです」
「挑発されたってわけか?」
「そういうことなんですかねぇ」
「まぁそれで、女の話が本当か調べてみたんですよ。そしたら…」
「未解決事件だった、とでも?」
「そうなんですよ」
「資料にある関係者にどうも“抜け”があるように見えて」
「そこにその女が“いた”と考えると、しっくりくるんですよ」
「女の素性は調べたのか? バーで探りは入れたんだろ?」
「ええ… でもそれが、全くヘンなんです」
「マンションの住民記録は、女が住んでた時期だけ空白になってて」
「役所の住基データにも穴が開いてます。だから戸籍も見つからない、と」
「おかしいでしょう? 逆に何かあるって言ってるようなもんじゃないですか」
「…昔の事件だろ。それも随分、昔の」
「ええ、二十数年前のです」
「お前が出会ったのは若い女だったんだろ?」
「え? はい… …あ…」
「酔っぱらって夢を見たのさ。忘れてしまえ」
「…」
「過去を捨てたんなら、現在もない。寂しい亡霊だな」
「あとな、お前」
「…なんですか、先輩…?」
「深酒はやめとけ。付け入られるぞ」
* * * * *
—あなた、刑事なんだ、そう—
ある女 Kei @Keitlyn
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