文化祭における50円玉20枚。

エピローグ お尋ね

　🐙

「ああ、相模くん。今大丈夫ですか？」

　特別棟の204教室にて。二次元研究会の催しはずっと前に終わったと知っていますのに、なんとも白々しい言い方だなと思います。

「ああ、速水さん。どうかしましたか。ニジ研の出し物なら終わってしまって」

　誰も錬金術師もどきになりたいなんて言っていません。

「研究会ではなくて、相模くんあなたに用事があるんです」

　相模くんの顔が急に下卑た顔になった気がします。

「クラスの出し物についてなのですが」

「あ、そっちね……」

　相模くんが小声で呟きます。

「他にどっちがあるのでしょう？」

「いいえ！こっちの話で。それで何でしょう？シフトならもう入っていないはずですけど。誰かの代打ってことなら少し待ってくれますか。あー、いやもう文化祭自体もうすぐ終わりですか。じゃぁ、なんだろう」

　私も人のことを言えないかもしれませんが、相模くんも十分白々しく見えます。

「今日の朝のことなのですが、10組のブースで釣り銭箱の50円玉20枚がなくなって、代わりに1000円札が置かれていたということがあったんです。あれをしたのはあなたじゃないですよね？っていうのを1人ずつ訊いているんですけれど」

　ちなみに相模くんは記念すべきひとり目です。おめでとうございます。

「ああ、あの。それならクラスの誰かから聞きましたよ。でも、どうしてそこまで？実質的な損はないんだし、速水さんも面倒でしょう」

　私は内緒話をするように小声で言います。

「実はあのお札、単なる1000円札ではなかったんですよ。結構な価値がつくっていうのに気付きまして。ですので、持ち主の方に言わなければいけないなと思いまして。ほら、これなんですけど。番号がゾロ目」

　私は例の写真を見せます。

「あ、すいません。ちょっと私ともう1人写っていますけど、お気になさらず。アップしてもらったら判ると思うんですけれど」

　あれを撮った時は、両替犯特定に使えるかもという思いつきでしたが、相模くんの表情を見るに、弥くんのおかげで楽に済みそうです。

「あなたじゃないのならいいのですが」

　この一言が引き金になったように、相模くんが一旦後ろに下がって何かを取り出してから言います。

「……。すいませんでした。勝手に50円玉20枚を持っていったの俺です。どうしても古い50円玉が必要なのに忘れてしまって……」

　相模くんが手に保つ何かは光り輝く50円玉20枚でした。逆ギレされて武器を持ち出されたりしたら面倒だなと思っていたので、一安心です。

「いや、いいんです。でもこれから困った時は私たちに相談してくださいね」

「本当にすいませんでした。それで、例の1000円札は」

「それに、私たちもあなたに謝らないといけないことがあって」

　相模くんとちょっと被るように言ってしまったのは少し失礼だったかもしれません。反省です。

「……え？」

「申し上げにくいことなのですが、実は1000円札の価値を知らなかった人が釣り銭を用意するために1000円札を両替に使ってしまって。申し訳ないのですが、お渡しできるのはなんでもないこの1000円札で。本当にすいません」

「じゃぁ、1000円札の持ち主を探していたのは？」

「……？もちろん、謝るためですよ？」

「あぁ……」

　私は教室の隅で灰になっている相模くんを置いて外に出ます。

　50円玉20枚は返ってきました。

　相模くんのせいでややこしくはなりましたが、これでまるっと元通りと言えるでしょう。

　福井さんも気に病む必要がなくなりましたし、両替犯の正体、理由ともども判明して私も晴れ晴れした気分です。

　特別棟から本棟への渡り廊下を歩いていると、スピーカーから文化祭1日目の終了を告げるアナウンスが聞こえてきます。弥くんはたこ焼きをお腹いっぱい食べれたでしょうか。昼ご飯が遅くなって悪かったなと思います。

「あ、そうだこれの電源も切っとかないとですね」

　胸ポケットに挿していた小型カメラの電源を切ります。録音もできる優れものです。

「弥くんにも報告しとかなきゃですね」

『弥くんのおかげで片がつきました。今度、美味しいものでも食べに行きませんか？今日のお詫びとお礼も兼ねて』

　50円玉20枚が1000円札になって。1000円札が1000円札20枚とはいきませんでしたが、10枚ほどにはなるかもしれません。

　鞄から1000円札を出します。

　綺麗に揃ったゾロ目。持っていたら何かいいことがあるかもしれませんが、どうしてかあまり持っていたいとは思いません。

　ひゅう、と秋風が私を撫でます。

　私は悪い子です。

　そんなことを思いました。

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　お読み頂きありがとうございます。

　速水弥のものを書くのは去年の夏以来1年ぶりですが、いかがだったでしょうか。ホワイダニットものを書くのは初めてで、出来が心配ですが、とりあえず書ききれて良かった……！誤字脱字の報告でも、コメントを頂けたら幸いです。

　ナツガタリ’25は9月15日までやっているそうで、読者ルートではカクヨム甲子園も対象になります。面白いなと思われたら、レビューやお星様もよろしくお願いします。