消えた村と透明な犯人

ねこピー

消えた村と透明な犯人

「ここは……どこだ?」


目を覚ました金田一コナンの目の前に広がるのは、見知らぬ森と紫色の空だった。

ついさっきまで、彼は自宅の書斎で『未解決事件ファイル』を読んでいたはずだ。


「異世界転移……ってやつか?」


推理オタクである彼にとって、異世界というワードはもはや珍しくない。しかし、現実になると話は別だ。


そのとき、一人の女性が現れた。白いローブをまとい、透き通るような瞳で彼を見つめている。


「名は何と申す?」


「金田一……いや、コナンでいい。金田一コナンだ」


「探偵殿、お願いがある。この村で……“透明人間による連続失踪事件”が起きている」


「透明人間だって?」


「ええ。村人が次々と消えていくのです。痕跡も残さずに」


コナンは眉間にシワを寄せた。

超常現象に見えて、必ず人間の仕業だ。彼の信条はいつもそれだ。



村に着くと、状況は最悪だった。

小さな村には、わずか10人しか残っていない。夜になると誰かが消える。防犯カメラも、監視魔法もすり抜けて。


「そもそも透明人間なんていない」


コナンは呟いた。


「この事件、肝は“いない人間”じゃなく、“目の前の相手”だ」


彼は村人たちを観察した。

怯える者、取り乱す者、そして――


「……ムキになるなよ、コナン。落ち着け」


自分自身に言い聞かせる。


「そもそもいない人にムキになってもイミはありません。目の前の相手が全てです」


これは、コナンが師匠から教わった言葉だ。

“透明人間”などという存在に気を取られてはいけない。

この事件は、誰か“目の前にいる人間”が仕組んだトリックだ。



夜、コナンは一人の男を見張っていた。

村の医者、リベル・サイネ。


「やっぱり……」


リベルは消えた村人たちを隠し持っていたのだ。

地下の薬草庫に、眠らせた村人たちを収容していた。


「なぜこんなことを?」


「……この村は、もうすぐ魔物に滅ぼされる運命だった。だから私は村人を眠らせ、封印の間に隠したのだ」


「それが“透明人間による失踪事件”の正体ってわけか」


「そうだ。誰も殺してはいない」


だが、コナンは目を細めた。


「リベル、ひとつ問題がある。あんた、村人全員を救ったつもりかもしれないが――」


コナンは指を鳴らす。


「“最後の一人”がまだ行方不明なんだよ。あんたも知らないだろ? この村には“11人目の住人”がいる」


リベルの顔が青ざめる。


「そ、そんな馬鹿な……」


「最初に俺を呼びにきた“白いローブの女”さ」


コナンは周囲を見回したが、白いローブの女はどこにもいなかった。

村人にも、そんな人物は誰も見たことがないと言う。


「結局、俺がムキになっても意味はなかった」


コナンは独り言のように呟いた。


「“いない人”にムキになるより、目の前の現実を見ろ。

それが探偵の基本だ」



事件は解決し、コナンは異世界に取り残された。


「ま、いいか。こっちの世界も事件だらけみたいだしな」


夜空を見上げると、紫の星が一つ、静かにまたたいていた。

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