第4話 すべてのピースが嵌まりきったパズル
御影は本棚の本を優しくなでた。
「本棚のホコリをすべて拭き取るためにはまず本をどけないといけません。鳴宮パイセンが読んでいた本が二段目から三段目に移動していたのは、犯人が本棚を綺麗にするために本を一旦全部取り出したから。犯人は本が元々どの段に置かれていたか覚えてなかったんでしょうね。——便宜上犯人って呼んでるけど、本棚を掃除した人だから悪い人ではないのかもしれませんねぇ。まぁ結局悪い人なんだけどぉ」
最後の言葉は意味深だが、妥当な推理だ。
「したがって、考えるべきはなぜ犯人が本棚のホコリを払ったのかってこと。これが難しいんですよねぇ。本棚を綺麗にしたかっただけなのかなぁ。でももしそうなら、普通に『私が掃除しました』と言えばいいだけの話。私たちは全員口を閉ざした。部外者がやったとも思えません。わざわざこんな場所まで来て本棚だけ掃除して帰るお人好しがいるでしょうか。まぁ私ならやるかもですけどぉ」
「嘘つけ」
「うぐっ。……それは置いといて、犯人が何らかの後ろめたさを持っていたことは間違いありません。本棚を綺麗にすることそのものが目的だったというわけではない。めんどくさいことに別の目的を考えないといけません」
口ではめんどくさいと言いつつも、彼女は心底楽しそうだった。
「そこで私は本棚の形状に注目しました。何の変哲もない本棚なんですけど、何の変哲もないからこそできることがあるんですよぉ。この本棚は上下左右対称で、フックもなければキャスターもない。ってことは。ってことは!? 上下を逆さまにしても誰も気づかないんですよぉ! かぶったホコリさえ拭き取ればですけどね!」
卯月さんが目をかっぴらいた。鳴宮さんも舌を巻いたように息を洩らす。御影の推理は止まらない。
「犯人は何らかの目的で本棚の上下を逆さまにした。そしてそれを隠蔽するため、ホコリをすべて拭き取って、本を戻したんです。じゃあその『何らかの目的』って何なんでしょうかぁ」
いちいちこの間延びする長音をつけるのが彼女の口癖らしい。せっかくイカした推理をしているのになんだか脱力してしまう。
「そして私は、本棚を逆さまにしたのは何かを隠したかったからだと考えましたぁ。犯人は何か後ろめたいことを隠そうとしているってことですぅ。本棚を逆さまにすることで隠すことができるのはどこでしょうかぁ。それは側面です! 本棚は部屋の隅に沿うように置かれているので、壁に接していない側の側面は逆さまにすると壁に接する側の側面に早変わり!」
彼女は本棚の露出している側の側面を軽く叩く。
「じゃあなんでここを隠したかったんでしょうかぁ。今すぐ隠れている側の側面を確認してもいいですが、それじゃあ面白くないので最後まで聞いてくださぁい。さっき、私は颯クンになんと質問しましたか? はい、颯クンどうぞ!」
「……入部届に書かれていた
誠チャンは小鳥遊の下の名前、誠太から取ったのだろう。
「そう! で、君は『綺麗だった』と答えたよね。でもさ、この部屋を見渡してみてよぉ。紙の下敷きになりそうなもの、ほとんどなくなぁい? おまけに誠チャンは手ぶらだったっていうじゃん」
壁はガタガタしたデザインの壁紙。床はカーペット。鉄扉は塗装が剥げ落ちてザラザラしている。固くて平坦で表面が滑らかなものは——ひとつしかない。
「誠チャンは本棚の側面を下敷きに使ったとしか考えられないんだよぉ。ここまで来たらもう分かるよね。油性ペンが裏写りして本棚についちゃったんだ。それを隠すために上下逆さまにして本棚の左右を反転させたってわけ! 実は本棚は綺麗にされたんじゃなくて汚されていたんだ!」
小鳥遊は呆然としたように成り行きを見つめていた。皆の注目が集まると、ようやく彼は我に返った。
「……しょ、証拠はあるの?」
御影は勝ち誇ったような表情を崩さない。
「もちろん証拠はあるよぉ。とは言っても今から見るんだけどね」
そう言って彼女は本棚をずらし始める。また本が将棋倒しになる。
「この裏に誠チャンの字が写ってるはず……」
だんだんと壁に接していた側の側面があらわになる。
——そこにはペンの跡はついていなかった。
「あれぇ、おっかしいなぁ……」
御影は隅から隅まで舐めるように観察している。本棚は薄いベージュ色だから、ペンが写っていたらすぐに分かるはずだ。
小鳥遊は困惑した表情で言う。
「たしかに本棚の側面で入部届を書いたけど、裏写りなんてしてないよ」
とそのとき、入口の鉄扉が開く音がした。
「お、みんな集まってるのか。新入部員たちもようこそ。三年生で部長の
現れたのは、この場にいなかったが部外者でもない唯一の人物、部長だった。
御影は頬を真っ赤に染めてうずくまった。
「……いっそ一息に殺してください」
( To be continued …… )
ホンダナパズル【アオハルパズル第1弾】 天野 純一 @kouyadoufu999
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます