[完] 静かな終わりの光

夏の終わりの風は、まるで過ぎ去った時間をそっと撫でるように冷たかった。

夕焼けの残照が空を燃やし、君の背中は遠くに溶けていく蜃気楼のようだった。


僕はその背中に言葉を投げかけられず、

言葉は胸の奥で絡まって、解けることなく重く沈んだままだった。


膝の上に乗った猫がじっと僕を見つめている。

その瞳は、あの夜に交わした言葉にならない約束を覚えているかのようで、

僕の視線を受け止めては、何も言わずにただ存在していた。


夏の匂いはもう遠く、消えかけているけれど、

記憶の隙間に残った星たちはまだ静かに瞬いている。


触れられないもの、言えなかったこと、

それらは光になり、闇の中でぼんやりと形を作っていく。


僕らの間には言葉にできない距離があって、

その距離の果てに、いつも君がいた。


けれど、その距離は決して埋まることなく、

夏の終わりとともに遠ざかっていく。


猫だけが知っている。

あの夜に存在した、言葉を超えた何か。


それはもはや、星の光のように、

触れられずとも確かにここにあるもの。


僕はその光を胸に秘めて、

静かに夏の終わりを見送った。


風はまだ冷たくて、夏は終わったけれど、

あの夜の星空は、ずっと僕の中で生き続けている。

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あの夜、猫だけが知っていたこと。 @Wagena

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