第50章 旅立ちの時
夜明け前の八王子。
丘陵に沈む施設――ドゥーマが、黒い影を吐き出していた。
鉄とコンクリートに覆われた収容棟は、まるで生き物のように蠢き、怨嗟の声を漏らしている。
その手前に立ち、私は深呼吸をした。
詩織が隣で護符を握り、氷室と猫丸、みのた、そしてべすが背後に並んでいる。
「ここが……私がいた場所」
震える声を吐きながらも、響の瞳はまっすぐだった。
「そして、これから私たちが救う場所」
詩織が静かに答えた。
その時、鉄扉の上空に黒い影が揺らめいた。
和田、村上、菊名――三人の職員が並び立ち、怪異を操る。
「ようこそ、帰ってきたな」
「ここがお前の居場所だ」
嘲る声が響く。
闇が一斉に押し寄せる。
「べす!」
猫丸が数珠を振ると、べすは白光に包まれ、白虎へと変じた。
咆哮が夜を裂き、怪異の波を吹き飛ばす。
「顕現せよ――一の龍!」
「秋葉大権現、我が炎に宿れ!」
響と詩織の護符が同時に輝き、龍と狐火が並び立つ。
白と紅の奔流が交差し、黒い影を切り裂いた。
氷室のタロットが宙に舞い、冷徹な声が響く。
「真理はここに――我が札、顕現せよ!」
魔法陣が炸裂し、職員たちを包む怪異の殻を粉砕した。
その奥、暗黒の中に――少女が立っていた。
蒼白な顔、けれど確かな瞳。
「……レイ!」
響の声が揺れた。
天音レイは柵の内側から、必死に手を伸ばしていた。
「響……来てくれたんだね」
涙が光った。
心と心が共鳴し、響とレイの震感が重なり合う。
その瞬間、施設全体が呻いた。
影が一気に膨れ上がり、ドゥーマの壁を揺らす。
――鯱博之の影。
「やはり来たか。だが忘れるな。お前たちの社会そのものが、すでに怪異だ」
漆黒の声が空間を支配する。
響は護符を握りしめ、真っ直ぐに前を見据えた。
「それでも……私は戦う。ここから、全部変える!」
龍が吠え、炎が走り、白虎が咆哮する。
氷室と猫丸も並び立ち、仲間たちの鼓動が重なった。
夜明けの光が差し込む。
ドゥーマを照らすその光は、まだ闇を払うには足りない。
けれど確かに、新しい旅立ちの合図だった。
「行こう。ここから第二の戦いが始まる!」
響の叫びに、仲間たちの声が重なる。
――八王子ドゥーマ編、開幕。
震感少女 -SENSE QUAKER- 猫師匠 @neko5150
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