第49章 出陣の刻

夏の夜風が、町田の街を撫でていた。

 戦いの爪痕が残る忠生公園に、私たちは立っていた。


 響は護符を握りしめ、詩織は炎の気配を背負う。

 猫丸は数珠を弄び、みのたはにやけた顔で黙っている。

 べすは黒ラブの姿で尾を振り、時折「白虎」の気配を漏らしていた。

 氷室望愛は白いコートを翻し、冷然と告げる。


「――準備はいいな。次は八王子。ドゥーマの心臓を潰す」


 誰も声を上げなかった。

 代わりに、全員が力強く頷いた。


 一方その頃、ドゥーマ内部。

 灰色の廊下を、和田・村上・菊名が歩いていた。


「騒ぎが広まってるらしい」

「だが所詮、外の小娘どもだ。ここまでは来られまい」

 その声を、レイは収容房の奥で聞いていた。

 胸の奥で震感が共鳴する。

 ――響が来る。必ず。


 町田駅前では、仲間たちが見送っていた。

 モケ女の三人は拳を突き出し、Silent Riotは声を合わせた。


「必ず戻ってこい!」

「ビートも、ガンプラも、まだ一緒にやってないんだから!」


 北山は鼻をすすりながら叫んだ。

「女子高生を守れるのは俺だけだと思ってたのにぃぃ! でも頑張れぇぇ!」


 めぐるは弁当箱を差し出した。

「これ、出発前に食べて。……帰ってきたら、また作るから」


 橘姉妹は街角で囁いた。

「これで舞台は揃ったね」

「うん、ここからが真のクライマックス」


 響はみんなの顔を見渡した。

 胸が熱くなる。

 でも、迷いはない。


「行ってくる。……絶対に、町田を取り戻すために」


 詩織がその隣で拳を握る。

「響一人じゃない。私も一緒だよ」


 氷室が静かにタロットを切り、猫丸は数珠を掲げる。

 べすが吠えた瞬間、夜空に魔法陣が浮かんだ。


 いよいよ――八王子ドゥーマへの突入が始まる

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