最終章 帰れない人々

 ──「やめといたほうがいいよ」

 そう忠告された者は、たしかに何人もいた。


 けれど、それでも行く者が後を絶たないのが、都市伝説というものだった。

 信じていなくても、信じたい。

 怖くなくても、怖がりたい。

 それが“試す者”たちの心理。


 スマートフォンに残された最後の投稿は、くだらないピースサインの写真。

 それを撮った者が帰ってきたかどうか、誰も知らない。


 ──“試す者”がいて、“消える者”がいる。


 不気味な噂は、やがて定番になり、

 定番は“伝統”と化し、

 やがて人々は、そこにある恐怖にすら麻痺する。


 「戻ってこられない場所」

 「証拠が何も残らない山」

 「声が誰にも届かない森」


 それが「禁足地」だった。


   *


 真木直人は、その夜もまた車を走らせていた。


 都市部の灯りが遠ざかるにつれ、フロントガラスの向こうに映る空は月も星も飲み込んだ。

 ナビはない。必要なのは感覚だけ。

 ハンドルを切る音だけが、静かな車内に響いた。


 ヘッドライトを消す。

 視界は闇に沈むが、直人の目はすでにその“暗さ”に慣れていた。

 誰もいない。何も聞こえない。

 ここでは、何をしても届かない。


 荷物を肩にかけると、ブーツの底で落ち葉を踏みしめながら、森の奥へと踏み入っていく。


 ──彼はまた、誰かを“迎える”のだ。


 あの小屋には、まだ十分に“道具”が残っている。

 地下には、誰の目にも触れない闇がある。

 そして縦穴の奥深くへ、今日もまた何かが落ちていく。


 日常と非日常の境界で、直人は静かに笑った。


 その森に、誰かがまた入ってくる。


 そしてまた──

 帰れない人々が、ひとつ増える。

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帰れない森 紡識かなめ @koto_sakuramiya

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