この熾烈さ、容赦のなさ。この感じがとても癖になります。
主人公は、「とある理由」で逃亡を余儀なくされている。
彼は「仕事」や「恋人」をどんどん失う羽目になった。愛した人に裏切られた。その上で、仕事に関してもルール違反をなしたと訴えられたという。
彼は善人? それとも悪人?
読み進める中で「彼」という人物への印象が徐々に変わって行くことになります。彼の言葉の通り、彼は「卑劣な罠」にでもかけられた被害者なのか。それとも、妄想に駆られて他人の幸せを踏みにじるような危険人物なのか。
そういう風に読み進める中で「彼の言葉をどう受け止めるべきか」と判断を迫られて行く読み心地がまずとても楽しかったです。
そして、そんな彼が起こした「出来事」と、その先の「逃避行」
最終的に出現する展開。それがまた、怖いのだけれど同時に「耽美な美しさ」を感じさせてくれました。
彼という存在にもたらされた「破滅」であると同時に、一種の「救い」ともなるのではないか。ある意味、誰からも必要とされなかった彼を、ちゃんと「必要」としてくれる何者かに出会える。
それは、この世の外側の論理で。「人外」の理屈の中ではっきりと「愛」をもらえた彼。もはや行き場のなくなった彼にとっては、これはある種の救済であり志向の結末だったのではないか。
そう思わせてくれる独特な美観に満たされた作品でした。