その一歩が命取り。「ヤマ恋病」の恐るべき中毒性とあなたが登山を趣味にしてはいけない理由
ポチョムキン卿
なぜ、山に登る?…病気だからです(汗)
ねえ、ちょっと聞いてほしい。山、好きですか? 🏔️
「ええ、好きですよ。気持ちいいじゃないですか」なんて爽やかに答えた、そこのあなた。危ない。実に危ない。その感情は、破滅への入り口かもしれないのです…。
今回は、多くの人が気づかぬうちに蝕まれていく恐ろしい現代の奇病、「ヤマ恋病(やまこいびょう)」について、警鐘を鳴らしたいと思います。
■ ここまでは天国。ロープウェイで楽しむ「登らない登山」のススメ
まず断っておくと、私はなにもすべての山を否定しているわけではありません。むしろ、観光で行く山は最高だと思っています。そう、「登らない登山」こそ、我々が山と付き合うべき唯一の正しい姿なのです。
例えば、我らが東京都八王子市の高尾山。都心からのアクセスも抜群で、ケーブルカーに乗ればあっという間に絶景が広がります。舐めてはいけません。東京だって数年に一度、ドカ雪が降ることがあります。そんな日の朝イチに高尾山に行けば、なんと東京で幻想的な雪山ハイキングが楽しめるのです(※ただし、この時点で片足を「沼」に突っ込んでいるので要注意)。
もう少し足を延せば、同じく東京の青梅市にある御岳山もケーブルカーで楽々。霊験あらたかな武蔵御嶽神社までの参道は、お店もあって散策にぴったりです。日本百名山の一つ、雲取山も東京にあるのですが、これはヤマ恋病の末期患者が行く場所なので、名前だけ覚えておきましょう。
関東で言えば、茨城県の筑波山も外せません。「西の富士、東の筑波」と称される名峰も、ケーブルカーとロープウェイを乗り継げば山頂付近までワープ可能。
天下の険、箱根山も同様です。ロープウェイから見下ろす大涌谷の噴煙は圧巻ですし、芦ノ湖畔で優雅にお茶をする…これぞ大人の休日の完成形。
さらにダイナミックな自然を求めるなら、立山黒部アルペンルートでしょう。ケーブルカー、高原バス、ロープウェイを駆使して標高2,450mの室堂平へ。秋には大観峰からの錦絵のような紅葉、そして巨大な黒部ダムの堤防を歩く高揚感。これらはすべて、汗ひとつかかずに享受できる文明の利器の結晶です。
そして、極めつけは中央アルプスの木曽駒ケ岳。ロープウェイに乗れば、わずか7分半で雲上の別天地、標高2,612mの千畳敷カールに到着します。目の前に広がる氷河期からの贈り物、夏には可憐な高山植物が咲き乱れるお花畑…。まるでスイスに来たかのような絶景を、いとも簡単に味わえるのです。長野の入笠山なども、手軽に高原の空気を楽しめる素晴らしい場所ですね。
そう、ここまでなら良いのです。宿泊したっていい。素晴らしい景色を肴にビールを飲み、満天の星を眺める。最高の体験です。
しかし、絶対に、絶対に、そこから先へ進もうなどと考えてはいけない。
「せっかくだから木曽駒ケ岳の山頂まで…」
そう思った瞬間、あなたは「ヤマ恋病」のウィルスに感染し、後戻りできない道へと足を踏み入れてしまうのです。
■ 発症のメカニズム:脳内麻薬「ドーパミン」があなたを支配する
なぜ、山に登ってはいけないのか。それは、登山という行為が、あなたの脳を内側からハッキングするからです。
ご存知の通り、登山は苦しいものです。心臓はバクバク、足はガクガク、呼吸はゼーゼー。「なんで私、こんな辛い思いしてんだ…?」と、誰もが一度は我に返る。
しかし、その苦行の果てにたどり着いた山頂で何が起きるか。
圧倒的な解放感。すべてを乗り越えたという達成感。そして眼下に広がる、神々だけが住むことを許されたかのような絶景。この瞬間、あなたの脳内では、とんでもない量の**脳内物質「ドーパミン」**が、ダムの緊急放流のごとくドバドバと放出されます。
このドーパミン、快感や多幸感をもたらす物質ですが、言い換えれば**「脳内麻薬」**そのもの。強烈な快感体験は、脳の報酬系と呼ばれる回路に深く、深くタトゥーのように刻み込まれます。
一度この味を占めてしまった脳は、どうなるか。
「もっと、もっとあの快感が欲しい…」
そう、完全に中毒者の思考です。脳が、あの山頂でのドーパミン放出を渇望し始めるのです。仕事中も、食事中も、家族といる時でさえ、ふと気づくと山のことを考えている。週末の天気予報ばかりチェックし、低山でもいいから、とにかく山に行きたくてたまらなくなる。
これが「ヤマ恋病」の初期症状。あなたの脳は、もはや山という名のディーラーに支配されてしまったのです。
■ 末期症状①:家庭と財布を破壊する「登山ギア沼」
ドーパミン中毒に陥った脳は、次に恐ろしい行動を引き起こします。それは**「散財」**です。💸
「安全のためには、良い道具が必要だよね」
「何度も使えるんだから、長い目で見れば安いもんだよ」
こんな都合の良い言い訳を自分にしながら、あなたは登山用品店に入り浸るようになります。最初は数千円のTシャツだったものが、いつしか数万円のレインウェアに。軽さを追求し始め、チタン製のクッカーやマグカップに手を出す。
「このザック、背負い心地が全然違う…!」
「ゴアテックスの最新モデルが出たらしい…!」
気づけば、クローゼットの一角は有名アウトドアブランドのロゴで埋め尽くされ、あなたの銀行口座からは諭吉が何枚もヒラヒラと山へ飛び立っていく。登山用品は、どれもこれも驚くほど高価です。しかし、ドーパミンに支配された脳は、金銭感覚を麻痺させます。「山に行くためだ」という大義名分のもと、他のこと(例えば家族サービスや友人との交際費)に回すお金は容赦無く削られていきます。
結果、どうなるか。
家族との会話は減り、友人の誘いも断りがちになる。関心事はただひとつ、山。あなたは社会から、家庭から、徐々に孤立し、さらに山へと逃避していく…。この悪循環、もはやホラーです。
■ 末期症状②:「登山でダイエット」という壮大な勘違い
「いやいや、私は健康のために登っているんだ。ダイエットにもなるし」
そう反論したい気持ちも分かります。しかし、残念ながらそれも幻想に過ぎません。一般的なシビアでない登山は、あなたの体重を減らすどころか、むしろ増量させてしまう可能性すらあるのです。
考えてもみてください。長時間歩き続け、汗を流し、ようやく下山してきた時の自分を。
「終わったー!!」
この完全無欠の達成感と解放感。テンションは最高潮。脳はドーパミンで満たされ、一種の無敵状態に陥っています。そんな状態で、あなたは一体何を求めるでしょうか?
そう、キンキンに冷えたビールと、温泉と、美味しいご飯です。🍺🍜♨️
「頑張った自分へのご褒美だ!」という、誰も抗うことのできない魔法の言葉を盾に、あなたは下山後のグルメを心ゆくまで満喫します。ご当地のソースカツ丼、名物のほうとう、地ビール…。登山の苦労で消費したカロリーなど、あっという間に帳消しどころか、大幅にプラスに転じるのです。
「いや、体重は増えたけど、これは筋肉がついたから。脂肪じゃない」
これもまた、ヤマ恋病患者が多用する言い訳のひとつ。確かに筋肉はつくでしょう。しかし、その上に見事なまでの脂肪の層が形成されている現実から目を背けてはいけません。体重は体重。重たくなった分は太ったのと同じなのです。体重が変わらずに体が締まって見えるなら素晴らしいですが、多くの人はお腹までポッコリ出てきて「貫禄がついたね」なんて言われ始める。それはもう末期症状です。
■ 結論:登山は趣味ではない。危険な依存症である
ここまで読んで、お分かりいただけたでしょうか。
登山とは、スポーツでもなければ、高尚な趣味でもありません。それは、ドーパミンという脳内麻薬を介した、**極めて中毒性の高い危険な「病」**なのです。
タバコがやめられない。お酒がやめられない。パチンコがやめられない。
それと、山に行くのがやめられないのは、本質的に何ら変わりありません。
だから、どうか賢明な皆さんは、登山を趣味になどしないでください。山と付き合うなら、あくまで観光の範囲で。ロープウェイやケーブルカーから美しい景色を眺め、「ああ、綺麗だなあ」と感動する。それだけで十分なのです。
自らの足で登り始めてしまったら、最後。
あなたは「ヤマ恋病」に身も心も蝕まれ、時間もお金も家庭も失い、ただひたすらに山頂のドーパミンを求め続けるゾンビと化してしまうでしょう。
それでも、あなたは登りますか?
その一歩が命取り。「ヤマ恋病」の恐るべき中毒性とあなたが登山を趣味にしてはいけない理由 ポチョムキン卿 @shizukichi
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