結び

そのは、

ほしすらいきころすやうに、

あまりにしづかに、

あまりにうつくしく、

ふたりを見守みまもりてゐたりぬ。


紫苑しをんひざに、撫子なでしこひたひをあづけ、

そのかみをそよかぜでてゆく。


「……いつまでも、かうしてゐたくおもふて」


紫苑しをんこゑは、

まるで綿雨わたあめのやうにやはらかく、

撫子なでしこ胸奥むなおくわたりぬ。


「ならば、そちとわれにて、

ちぎりをむすびませぬか」


撫子なでしここし、

紫苑しをんの両のてもとを、しづかにつつむ。


くちづけは、こころちぎり。

ならば、言葉ことばにても、

永遠とわちかひを、はしませう」


「……ちかひ」


紫苑しをんはうなづき、

ふたりは火灯ほのほまへなほしぬ。


撫子なでしこころもそでをそっとはらひ、

胸元むなもとより、ひとふさのくれなゐ組紐くみひもを取りいだす。


「これは、われいとけな

ははよりさづかりし、

まもりのいとなり」


撫子なでしこはそれを、

紫苑しをんひだり手首てくびにやわらかくむすび、

みづからのみぎ手首てくびにも、

ついとなるひもむすぶ。


ふたりの手首(てくび)を結ぶ、

くれなゐいと


それは、こひではなく、

**宿命しゅくめい**といふ契約けいやく


「そちにひます。

紫苑しをん──


この、このたましひ

ただひとり撫子なでしこあづけようと、

こころしてさふらふや?」


「……はい。

は、そちのもの。

ほかのたれにも、ふれさせませぬ」


「そのこと、まことや?」


「まこと──

まことに、撫子なでしこのみをおもひて、きたし」


撫子なでしこひとみが、

火影ほかげれのなかで、

いといとしくうるみてひかりたり。


ふたりのくちびるふたたかさなり、

さきほどよりも、

ゆるやかで、けれどふかく──


そこにこがれも、情欲じやうよくも、

すべて昇華しやうくわされしあい気配けはい


「……撫子なでしこ

そちとなら、

黄泉路よみぢまでもともあゆみませう」


紫苑しをん……

としき、ひとよ……」


組紐くみひもむすが、

すこし、ふるえしとき


その瞬間しゅんかん──

ふたりのこころは、

時空ときえて、むすばれたり。


こひゆる。

こひみだる。


されど、ちかひはしづむ。

永遠とわなる静寂しじまのうちに。


撫子なでしこ紫苑しをん

このふたりが、

もう「ふたり」ではなくなり、

ただ「ひとつ」となれるときが、

ついにおとづれたる──


それが、「よひつどひ」の、

まことはじまりであった。

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そちと、宵の集ひ 通りすがり @-141421356-

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